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寵愛

魔法少女事件から約2ヶ月。

現在は報告された魔物を討伐し終えた所だ。

無論、今回もメイド服で――ではない!


前回のパーティーで僕は暫定とはいえ勇者に選ばれた。

そのため、メイド業はその時を持って卒業したのだ。


なんと嬉しいことだろう。

思わず鼻歌を歌ってしまいそうなほどだ。


あっ、鼻歌交じりで魔物を殲滅してたのは内緒で。

みんなに変な目で見られるかもだから。


それにしてもみんなの成長は凄まじいな。

前回は全員でやっとBランクを倒せていたのに対し、

今回は同じBでも数人のグループで倒せていた。


それでもAランクの討伐は難しいだろう。

体感だとBランクの群れとAランク単騎だと、Aランクのほうが数十倍は強い。

難易度調整をミスったクソゲーでもまだやさしいと思えるくらいの強さだ。


まあ、Aランクなどそうそう生まれない。

十数年に一回生まれるくらいだ。


一昔前の『10年に一回の大雨です』くらいの信憑性はある。


あと、今回の成果だが“略奪”は結構凄いと再認識できたことだ。

群れの下っ端のCランクの魔物に対して“略奪”を使ったところ、

種族の横にあった“40/4”のところは変化無しだが、

そいつが持ってた“瞬歩”を獲得できた。


敵が使ってたのでわかるが、これはとてつもなく強い。

20mほど離れてると思ったらいきなり目の前にいたと言えばその脅威も伝わるだろう。



そうして、街まで帰ってきた。


そのとき、僕の身体に〝トン〟となにかがぶつかる。

それは小さな子供だった。


「ごめんなさい、って勇者様ですか?」


そう聞くと、今にも泣き出しそうな表情になりながら僕達に懇願する。


「助けて!孤児院のみんながお熱を出して苦しそうなの……」


その声には必死という言葉があまりにも似合っていた。


「ごめんね、いま魔物を倒したばかりでそっちに人は――」

「その孤児院ってどこ?」


僕は神山の言葉を遮りそう尋ねる。

神山の判断は正しい。

冷徹に見えるが魔物の死体を放置すると色々とやばいからだ。

それこそこの国の滅亡の要因になるかもしれない。


実際、昔に死体処理を怠ったせいでアンデットの大群が生まれ、

“最強の国”と呼ばれた国家が本当にあっさり滅んだ例もある。


ただ、僕はこの子を見捨てる気にはなれなかった。

息は上がっており、枝に引っかかったのか服もほつれていた。

必死に周りの人に助けを求めて回ったたのだろう。


神山がなんか言ってるが僕はそのまま孤児院に案内してもらった――



――案内された孤児院は白を基準とした教会のような見た目をしていた。

子供の治療もできないものならとんでもない金欠とか思っていたがそうは思えなかった。


責任者は後で問いただすとして今は子どもたちの治療が優先だ。

いつものクセで戦闘中も薬草を集めていたがそれが功を奏した。


加え、今回は風邪に強い薬草が多く取れたので人数分は用意できるだろう。

そうして、風邪の子どもたちの部屋に行く。


中に入ると同時に異臭が鼻を襲う。

ここの者はまともに病人の身体も拭けないのか?


怒りが込み上がってくるが、文句を言うのは最後だ。


まずは、状況の確認からだ。

何が原因かわからなければ対処の仕様もない。


……調べた感じだと、インフルエンザのようなウイルスだろう。

曰く、数日前からこのような状況らしい。


手を当てた感じ、だいたい40度はありそうだった。

でも、ペストのような病気じゃなくてよかった。


これなら今でも治せると思う。


そこで今朝取った薬草を煮沸した水で30分ほど煮る。

できたものは風邪に対する“簡易ポーション”。


簡易と行っても効能は高く、あれくらいなら2日で治るだろう。


子供に合わして45度くらいに冷ましてから投与する。

触れたらあったかいくらいだ。


逆にこれ以上冷たくしてもだめだ。

弱った胃腸には強い刺激だからだ。


「ゆっくり飲んでね、大丈夫苦くないよ」


「……あったかい――」


そうして、病気にかかった子、全員に投与が終わった。

みんなは安心したようで眠りについたようだ。


その後は、湯桶に水を入れ雑巾で一人ひとりの体を拭く。

僕も小さい頃にこうやってしてもらったっけ。


懐かしい記憶を思い出しながら子供の頭を撫でる。

そうすると、寝ているにも関わらず微笑みを返してくれる。

僕も自然と頬がゆるむ。


あとから来た神山達はその光景に息を呑む。

その光景はまるで、慈愛に満ちた女神そのもののようだったからだ――



――僕は机を思いっきり叩いて責任者――この孤児院の経営者を問い詰める。

その形相は先ほどまでとは打って変わり、怒りの矛先が向いていないものでも萎縮してしまうほどだった。


「ちょっと、音が大きくない。子供達が起きるよ」

「物理結界の派生、遮音結界で囲ってるから大丈夫だよ」


神山の問いにイリムは優しい口調で答える。

だが、その声には怒りが混じっており少し不気味だった。


「それで、なんであなたは苦しそうにしている……助けを求めている子供を放置した。医療の知識がなかろうと医者を呼ぶくらいはできたはずだ」


そう言うも、一切動揺せず()()と答える。


「私にはそのような役目を与えられていないからです。私の役目は子どもたちが暮らす場所を提供することです」


その言葉にイリムを含め、その場にいた者全員が絶句する。

当の本人は全く顔を変えず、目には光がないように思えた。


そこでイリムに一つの違和感が生じる。

『似ている』っと。


その目はここに来てから何度も見ているような気がした。

その最たる例がパーティーの食材を売ってくれた“商人たち”だ。

他にも街で見た人は、全員同じ目だった。


今考えると、皆一様に生気がないように思えた。

どのような時でも変わらずに……


ついてきてくれた桜凛さんや栗山さんは管理人の言動に対し怒りを見せた。

対して神山は同じ考えに至ったのか引きつった表情をしていた。


「帰るよ咲苗、葉月」


神山がそう言うと信じられないと行った表情で二人は反論する。


「ここでこいつを放っておけってこと、私は絶対に認めないんだから」

「私もそれには賛成。改善しなかったらあの子達がまた苦しむ」


「いや、ここは神山の言う事に従おう。それに心配になればまた来ればいい」


イリムがそう言うと彼女らはとても驚いた顔を見せた。

人一倍子どもたちに対する所業に怒っていたイリムがまさか賛同するとは思っていなかったからだ。


「でも――」


桜凛が反論しようとする。

そこを栗山が肩を掴み制止した。


「イリムがそういったんだ、なにか裏があると思うよ」


「……たしかに、イリムちゃんだもんね」


二人はそう言って納得してくれた。


いつもならイリムとの扱いの違いに悲しむ神山だったが、

今はそんな余裕はなかった。


そして、僕達は城に戻ると決めた。

純白の孤児院の扉を開ける。


「いっちゃやだ。お姉ちゃん、ここにいて!」


後ろからそう聞こえた。

その声はイリムに向けられたものだった。


「だいじょうぶ、また戻って来るから。その時までいい子に待っててね。」


そういいながらその子の頭を優しく撫でる。

その行為に「えへへ」と喜びながらもどこか悲しい表情だった――


城に戻ってきたが、胸の奥の不安が前よりも大きく渦巻く。


あそこに残ったほうが良かったのでは?

この選択は本当に合ってるのか?

そもそもこの国で何が起こっているの?


自問自答するも答えは出ず、時間だけが虚しくも過ぎ去る。


他のみんなが訪ねてくると思っていたがそんなことはなかった。

みんなも僕と同じように悩んでいるのだろうか。


気持ちがまとまらないままイリムは眠りについた。

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