第3話『言葉も通じないけど、優しさは伝わった』
森での生活にも、少しだけ慣れてきた。
食べられる果実を見分けるコツも掴んできたし、火も起こせるようになった。
雨水を集める方法も、まあまあ安定してきた。
死なない体ってのは、便利っちゃ便利だ。痛みはあるけど、死なないなら試せることは多い。
でも――やっぱり、孤独はキツい。
誰とも話せない。誰にも触れられない。
夜になると、火の揺らぎを見つめながら、無性に誰かの声が聞きたくなる。
そんなある日だった。
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森の奥で果実を探していた俺は、遠くから足音を聞いた。
獣か? 魔物か? 警戒しながら身を低くする。
……違った。出てきたのは、年配の男だった。
ボロボロの服を着て、背中に薪を背負ってる。
俺を見て、目を丸くした。そりゃそうだ。こんな森の奥に、若い男が一人でいたら驚くよな。
男は、ゆっくりと近づいてきた。
俺は逃げるべきか迷ったけど、動けなかった。
すると、彼は腰の袋からパンみたいなものを取り出して、俺に差し出した。
言葉は通じない。でも、表情は優しかった。
「……ありがとう」
俺は、震える手でそれを受け取った。
涙が出そうだった。誰かが、俺に何かをくれた。
それだけで、世界が少しだけ優しくなった気がした。
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それから、男は何度か訪ねてくるようになった。
言葉はまだわからない。でも、彼は俺に食料を分けてくれたり、道具を置いていってくれたりした。
俺は、彼の言葉を真似して口に出してみた。
「ミズ……」「ヒ……」「パン」
意味はわからないけど、音は覚えられる。
木の板に文字を刻んで、少しずつ言葉を覚えていった。
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小屋の中も、少しずつ“生活”っぽくなってきた。
棚を直して、果実を干して保存して、火を絶やさないようにして。
そして、誰かが来てくれるだけで、心が少しだけ軽くなった。
夜、火を見つめながら俺はつぶやいた。
>「言葉はわからなくても、優しさは……ちゃんと届くんだな」
俺は、初めて笑った。
それは、ぎこちなくて、ちょっと泣きそうな笑顔だったけど――確かに“生きてる”って感じがした。




