第18話『それなりに幸せな日々』
ルミナスの朝は、静かで澄んでいた。
窓の外には湖が広がり、風が草原を撫でていく。
俺たちの家は、町の外れにある小さな一軒家。
双子の笑い声が、毎日そこに響いていた。
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ユウは風の魔法に夢中で、ミナは光の魔法を器用に操るようになってきた。
リリィは町の魔法学校で講師として教えていて、俺はギルドの任務をこなしながら、剣術を教える場を持つようになった。
「パパ、見て! 風の玉、できたよ!」
「すごいな。ちゃんと形になってる」
「えへへ、ママに褒められた!」
子供たちの成長は、俺の時間とは違う速さで進んでいた。
それが、嬉しくて、少しだけ怖かった。
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ギルドでは、俺とリリィの存在が少しずつ知られるようになっていた。
任務の成功率、対応力、そして――Sランクという肩書き。
ただの転入者だと思っていた人たちが、少しずつ距離を詰めてくる。
「……あの人、若いのにすごいな」
「いや、若いっていうか……10年前から変わってないって噂もあるぞ」
そんな声が、耳に入るようになった。
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ある日、任務帰りにギルドの休憩室で、若い冒険者に声をかけられた。
「すみません、朔さんって……何歳なんですか?」
「……見た目よりは、ずっと上です」
「え、でも……全然老けてないですよね。僕、五年前に見たときと全く同じで……」
俺は、少しだけ笑ってごまかした。
でも、心の奥に冷たいものが残った。
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夜、リリィが俺の隣で静かに言った。
「……気づいてる人、増えてきたね」
「……ああ」
「でも、私は気にしてない。あなたが変わらなくても、私たちはちゃんと“家族”だよ」
彼女の言葉は、いつも俺を救ってくれる。
でも、俺の中には、言葉にできない不安が少しずつ積もっていた。
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>「それなりに幸せな日々。
> でも、“変わらない”俺は、いつか誰かの目に留まる。
> そのとき、何を守れるだろうか」
静かな日々の中に、少しずつ揺らぎが生まれていた。
それでも、俺は家族と共に生きていた。