第13話『魔法を覚える剣士』
「火球、詠唱なしで出せるようになったじゃん!」
リリィが嬉しそうに言った。
俺は、掌に残る熱の余韻を感じながら、静かに頷いた。
「……まだ、狙いが甘いです」
「謙虚すぎ。十分すごいよ。魔法歴半年でここまでできる人、見たことないもん」
彼女はそう言って、俺の肩をぽんと叩いた。
その手は軽いけど、言葉には重みがあった。
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魔法の基礎――属性操作、魔力制御、詠唱短縮。
リリィの指導は的確だった。
彼女は感覚派で、俺は理論派。
だからこそ、教え方と受け取り方が噛み合った。
「朔くんって、剣の動きが綺麗だから、魔力の流れも安定してるんだよね」
「……そういうものですか?」
「うん。魔法って、体の使い方がすごく大事なの。だから、剣士は意外と向いてる」
彼女の言葉は、俺の中で少しずつ形になっていった。
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ギルドの任務でも、魔法を使う場面が増えた。
火球で敵の動きを止め、剣で仕留める。
風の刃で距離を詰め、雷で一瞬の隙を作る。
「剣と魔法、両方使えるって……やっぱりかっこいいね」
リリィがそう言ったとき、俺は少しだけ笑った。
かっこよさなんて、考えたこともなかった。
でも、誰かにそう言われるのは――悪くない。
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ギルド内でも、俺の名前が少しずつ知られるようになった。
「魔法を使う剣士」「リリィの相棒」「無口だけど強い」
そんな噂が、静かに広がっていく。
でも、俺は変わらない。
ただ、剣を振るい、魔法を使い、任務をこなすだけ。
それが、俺の“生き方”だった。
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>「魔法を覚えたことで、戦い方が変わった。
> でも、それ以上に――誰かと並んで進むことが、俺を変えていった」
リリィとの時間は、少しずつ積み重なっていく。
それは、俺にとって初めての“共有できる日々”だった。