第1話『死にたいと書いたら、知らない世界にいた』
俺の名前は天野朔。14歳。中学2年。
……まあ、肩書きだけなら普通の学生だ。
でも実際は、学校なんて半年以上行ってない。部屋からも、ほとんど出てない。
理由? 聞くまでもないだろ。いじめだよ。
陰湿で、くだらなくて、でも確実に俺を壊した。
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今日も俺は、暗い部屋の中でPCの画面を見つめていた。
匿名掲示板。誰も本名を名乗らない、誰も責任を取らない、誰も助けてくれない場所。
>「死にたい。誰にも必要とされてない。消えたい。」
俺はそう書き込んだ。
その瞬間、画面が――光った。
「……は?」
白い光が部屋を包み込む。眩しすぎて、目を開けていられない。
心臓が跳ねる。体が浮く。何が起きてるのか、まったくわからない。
そして――俺の意識は、そこで途切れた。
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目を覚ましたとき、俺は森の中にいた。
いや、正確には“見知らぬ森”だ。空は紫がかっていて、空気は妙に甘い匂いがする。
地面は湿っていて、服はそのまま。PCもスマホもない。
「……夢か?」
そう思ったのも束の間、茂みがガサッと揺れた。
出てきたのは、犬みたいな体に甲殻をまとった……化け物。
俺は反射的に逃げようとしたけど、足がもつれて転んだ。
そして――噛まれた。
「痛っ……! なにこれ、やば……死ぬ……!」
腕が裂けて、首から血が噴き出す。
視界がぐらつく。呼吸が荒くなる。
でも、意識は――途切れない。
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魔物が去ったあと、俺はしばらくその場に倒れていた。
体は動かない。でも、意識はある。
血は止まらないのに、なぜか俺は生きている。
「……なんで、まだ……」
声が震えた。
怖かった。痛かった。
でも、それ以上に――わからなかった。
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森の奥へと歩いた。
何も考えられなかった。ただ、動かないと死ぬ気がした。
いや、もう死んでるのかもしれない。
それすら、よくわからなかった。
そして、朽ちた木造の小屋を見つけた。
扉は半分壊れていて、床は腐っていたけど、雨風はしのげそうだった。
俺はそこに身を寄せた。
震える手で、服を裂いて止血を試みる。
痛みはある。血も出る。
でも、俺は――まだ生きていた。
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>「……生きてる。なんでだよ……」
俺は、異世界での“人生”を始めることになった。
チート能力も何もない。
誰もいない世界で、誰にも頼れないまま――ただ、生きていた。