時計塔~歪みの悲劇~
ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリス”をモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
次の朝、マーリが真剣な顔をしてアリスの家の前に立っていた。
「おはようございます。マーリさん、どうしましたか?」
アリスはブルーのネグリジェのまま応対した。
「朝っぱらから私がここに来ているんだ。どうしたかなんて聞かなくてもわかるだろう」
マーリは憎たらしそうに言う。
「まあ、朝から聞きたくない話だろということは予測できますね。・・・中に入りますか?」
「ああ」
マーリは家の中に入るとますます小さく見えた――家の中では遠近法が普通に戻る――
陽菜は張り詰めた空気にいたたまれなくなり、部屋に戻ろうとしたが・・・
「陽菜さんもここに居てください」
「ああ、選ばれし者も聞く必要があるな」
二人に引き止められてしまった。
(選ばれし者っていう名前じゃないんだけど)
少し不機嫌になりつつ、しかたなく言われたとおりに一番端の椅子に座った。
「さて、昨夜街の靴屋の親父が時計を巻き戻すのを忘れたそうだ。そして、今朝亡くなった」
「・・・・・・そうですか」
「これが、靴屋の親父の時計だ」
その時計を見ると、今までにないくらい懐中時計がバラバラに壊れていた。
まるで、時計に爆弾が仕掛けられていたかのように。
「親父さんは?」
アリスが淡々と聞くと、マーリは苦い顔をして言った。
「消滅したそうだ。一瞬でな」
「・・・・・・そうですか」
二人はしばらく沈黙する。
陽菜も何も言うことができず――人間が一瞬で消滅するなんて想像もできなかったのだが――黙っていた。
「急ぐべきだよ、アリス。ゆがみは確実に大きくなっている」
「そうですね」
珍しく真剣な様子の二人に、陽菜は何も言うことができなかった。
そして部屋は再び沈黙に包まれる。
陽菜は居たたまれない空気の中、壊れた時計をじっと見つめていた。
〈トランプ遊園地~トランプ遊園地へ~へ続く〉
8月中UP完了に向けて、邁進中・・・