時計塔~アリスって・・・~
2025.8.5 時計塔~アリスって・・・~を更新しました。
ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリス”をモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
20年ほど前に書いた、冬桜初のファンタジーです。
ゴーン、ゴーン・・・
「あれ?年越し?」
翌朝、陽菜は108つの鐘の音で起きた。
しかし、寝起きの悪い陽菜は再び暖かい布団にもぐりこむ。
「なわけないよね~。お休み」
すやすやと、もう一度安らかな二度寝の誘惑に負けた陽菜に、静かに奴はやってきた。
トントンドンドン!
初めは軽いノックから始まった音は、急に木をブッ叩くような音に変った。
ドカ!バキ!
そしてついに、厚さ十五センチはあろうかという頑丈な木製の扉は破壊された。
しかし、それでも陽菜は起きない。
「こらー、起きんか!」
奴はそう叫びながら陽菜にとび蹴りを食らわした。
「痛ーい。何すんのよ、ばか母!」
見事なとび蹴りを食らった陽菜はさすがに飛び起きて、奴に向かって叫んだ。
「って、あれ?アリス」
そう、頑丈な扉を壊し陽菜に見事なとび蹴りを食らわせたのは、あのアリスだった。
「起きやがれ、小娘!もう一発食らわすぞ!」
昨日とはうって変わって、紳士的な態度など微塵も感じさせないアリスがそこにはいた。
アリスは、当然ながらあの堅苦しいタキシードではなく、なぜかブルーのネグリジェを着ている。
一見すると、有名なウサギのファミリーに見えないことも・・・ない。
ただ、それにしては目つきが怪しかった。
「もしかしてねぼけている?」
陽菜の予想通り、アリスの寝起きは破滅的に悪かったのである。
「うるせー・・・・・い」
アリスは電池の切れた人形のようにその場に崩れ落ち、そのまま眠り始めた。
陽菜はしばらく呆然としていたが、ふとわれに返りうつ伏せで転がっているアリスの頭を指でつつく。
「本当に寝てるの?おーい。すごいよ、この寝起きの悪さ。私が一発で起きちゃったじゃないの」
ふ~っとひとつ息を吐き出して、陽菜はじっとアリスを見つめた。
(・・・かわいいかもしれない)
寝姿は。
「人には欠点が一つや二つあるって言うけれど、しかしこれはすごい」
陽菜は自分の寝起きの悪さなど忘れ、熟睡しているアリスをしばらく眺めていた。
「でっかいウサギだよ、ホント」
ピクリともしないアリスに見飽きて、陽菜は朝食を用意するために台所へと向かった。
家の外見に似合わず、綺麗で機能的なキッチンは、ガステーブルがないという以外は普通だった。
「でも、どうやって調理するのかな?」
陽菜は適当にいろんなところをいじっていた。
「なにこれ?」
カウンターの下にある収納扉を開けると、そこには鉄の壷に入った炎の子がいた。
「おはよう」
「・・・」
陽菜は炎の子に挨拶したが、返事は返ってこない。
(話せないのかな?)
陽菜は壷の隣にあった火箸で炎の子をカウンターに出してあげる。
すると炎の子はカウンターの隅にあるくぼみに入り込んだ。
それはまるでガステーブルに火がついたようだった。
「もしかして、これで料理を作るのかしら?」
陽菜が小さくつぶやくと、炎の子はコクコクと大きくうなずいた。
「すごいわ~。じゃあ、がんばって何か作らなきゃ。」
とはいっても、陽菜に作れるのは少しこげた目玉焼きとお湯を注ぐだけでできるカップスープだけだったのだが・・・。
「主食は・・・」
陽菜が主食になるようなものを探そうとキョロキョロあたりを見渡していると、カウンターのくぼみから炎の子がぴょんと飛び出て、藤つるで出来たような籠を指差した。
「これ?」
陽菜が炎の子に言うと、炎の子はまた大きく二度うなずく。
陽菜がその籠のふたをあけると、そこにはたくさんの大きなレーズンパンがあった。
「おいしそう!ありがとう炎の子さん」
陽菜が炎の子にお礼を言うと、炎の子は照れたように炎を大きくした。
「それは炎子というのですよ。陽菜さん」
「え!!」
背中越しに突然話しかけられ、陽菜は驚き振り向くと、そこにはもうビシッとタキシードに着替えたアリスが立っていた。
「お、起きている?」
「ええ、少し御見苦しいところをお見せしたみたいですね。」
「い、いえ・・・。」
――あれを少しと言い切れるのだろうか?――
そんな疑問をよそに、アリスは陽菜が用意した朝食をじっと見つめていた。
〈時計塔~歪みの悲劇~へ続く〉
8月中のUP完了に向けて、ちょこちょこ更新。