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アリス  作者: 冬桜
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時計塔~アリスの家~

2025.8.3 時計塔~アリスの家~を更新しました。


ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。

そこで、ウサギのアリスと出会う。

鏡の国のアリス”をモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。


20年ほど前に書いた、冬桜初のファンタジーです。


「ここが私の家です」


 アリスに連れて行かれたところは、モスクのようなところだった。


 しかし、普通はたまねぎ形をしているのに、ここの屋根は大きなウサギの頭をかたどった形をしていた。


 (悪趣味・・・)


 思わず、陽菜の顔が強ばる。


 陽菜の視線に気づいて、アリスもウサギ形の天井を見た。


「素敵でしょう。何せ私の家は由緒正しきアリス家ですので」


 アリスは満足げに笑い、そして誇らしげに言った。


 (口に出さなくて良かった)


 陽菜は心からそう思う。


 アリスはしばらくうっとりとウサギ型の屋根を見ていたが、陽菜がじっと自分を見ていることに気づいて顔を元に戻した。


「・・・こちらへ」


 アリスに促されて中に入ると、そこには時計がたくさんあった。


 金縁の高そうな掛け時計に小さくてボロボロの懐中時計、短針がない時計や針が左回りになっているのまである。


「ああ、この時計ですか?この世界は終わりなき世界なので、一日が終わったら必ず針を元に戻さなければならないのです」


「それが規則?」


 陽菜が聞いた。


「そうです」


 それにしてもなぜアリスの家にはこれほどたくさんの時計があるのだろう。


「なぜこんなに時計があるの?」


 陽菜はこらえきれずに聞いた。


「それは死んでいったものたちの時計です」


 アリスはなんでもないことのように言う。


 しかし、その答えに陽菜は驚いた。


 なぜならこの世界は終わりのない世界である。


 終わりのない世界なのに死という終わりが来るなんて、そんなことがあるとは信じられなかった。


「なんで人生の終わりがあるの、ここは終わりのない世界なんでしょう?」


 陽菜はアリスに詰め寄った。


 アリスはしばらく黙り込んでいたが、しばらくするとボロボロになった懐中時計を陽菜に見せた。


「なぜこの時計はボロボロなのかわかりますか?」


 アリスは陽菜の問いに答えず、問いを投げかけた。


 当然、陽菜には答えられない。


「知らないわよ」


 アリスはその答えに満足したようだ。


「この時計の持ち主たちは、みな規律を守れなかったものたちの成れの果てです。私たち鏡の住人は、自分の持っている命の時計をまき戻すことで永遠を保っています。


 ただ、それはやはり自然の摂理に反していますので、どうしても歪みは出来しまうのです。私たちはその歪みを最小限にするために規律を作りそれにのっとって生活しています」


 アリスは少し悲しそうに目を伏せ、話を続けた。


「けれど中には規律を守れないものもいるのです。するとたまっていた歪みは規律を守れなかったものへと集中し、一気に年を取ってあっという間に死んでしまうのです。そして残されるのが、このボロボロになった時計たちです。私たちアリス家は代々このボロボロになった時計を預かり、そして再生させることを仕事にしてきたのです」


 アリスは悲しそうにじっと時計を見つめる。 


「そんな危険を冒してまで、どうして終わりのない世界を守ろうとするの?」


 陽菜は終わりのない世界にあこがれていたのもかかわらず、今はそれが良いことだと思えなくなっていた。


「鏡が、三次元の世界の人間の欲望や夢を反映させるからです」


 (私たちの世界!!)


 陽菜は背筋が凍るような思いだった。


「三次元の人間は、鏡に自分の欲望や夢を映します。鏡の世界はそれに影響されるのです。そして膨大な欲望や夢を管理して鏡の世界に反映させているのが、純白の宮殿にいる魔女キュアーなのです。キュアーは人間の感情を自分のエネルギーとしてこの世界で吐き出します。空の色が変わるのはそのためなのです」


 陽菜が窓から空を見ると、ピンク色だった空がいつのまにか三次元の世界のような普通の青空になっていた。


「規律を守れば、キュアーのおかげで私たちは平和に暮らせるのです」


 アリスは純白の宮殿があるのであろう方向を見る。


 陽菜もそれにつられて、その方向を見た。


 しばらくじっとはるか遠くにあるはずの純白の宮殿を眺めていると、アリスが何かを切り替えるように陽菜を見た。


「陽菜さんの担当は私なので、絶対に陽菜さんが規律を違反することがないようにしますよ。さあ、陽菜さんの部屋を案内しましょう。・・・こちらです」


 陽菜は黙ってアリスに続いた。


「この部屋です」


 アリスが扉を開けると、陽菜の目にはピンクとフリルで飾られたかわいらしい部屋が目に飛び込んできた。


 (に、似合わない!!)


 中世のお姫様でも、こんなビラビラした部屋には住んでいなかっただろうと思うほどその部屋はフリルであふれている。


 天蓋つきのベッドも例外ではなく、しかも枕はショッキングピンクのキャンディー形だった。


「若い女の子が来ることなど今まで一度もなかったものですから、魔女のキュアーに聞いて部屋の内装を変えたんですよ。前の部屋はブルーで統一されていて、とても女の子をお迎えするような部屋ではなかったので」 


 アリスはにっこりと笑って言った。


(むしろブルーのほうが良かったなんて、この笑顔を見たらいえないな――)


 何しろ顔はウサギである。


 つぶらな瞳がキラキラと輝いてにっこりと笑う様は、もう抱きついて撫で回したいくらいに愛らしいのである。


 しかも、今度の笑顔に・・・悪意はない、純粋な親切心かららしい。


「陽菜さん、どうですか、気に入りました?」


 アリスは笑顔のまま陽菜を見た。


「・・・うん。かわいいね~」


 どうしても嫌とはいえなかった。


 多分アリスは泣かないであろうが、万が一そのつぶらな瞳に涙が浮かんだら、陽菜はその罪悪感に耐えられそうもなかったのである。


(プライド高そうだから、ここで「嫌」と言ったらきっと、影で落ち込みそうだしな~)


「それはよかったです。まだ夕食までには時間がありますので、どうぞ荷物を片付けていてください」


 そういって、アリスは陽菜の部屋から出て行く。


 陽菜はアリスが完全にこの部屋からと遠ざかったのがわかると、ベッドにダイブした。 


「終わりのない世界か。でも死ぬことがあるのよね。そしてこの世界は三次元の世界に影響されている。確かに古くから人は不老不死にあこがれていたものね。それを考えれば、ここは桃源郷ってことになるのかな」


 陽菜は顔がにやけてくるのがわかる。


 ミステリー好きの陽菜にとって、鏡の中の世界は興奮の連続だった。


 アリスにちょっと触ってみたときも、本当はもっと撫で回して観察したい気持ちをこらえて偶然触れたように振舞ったのだ。


「とりあえずしばらくアリスは私の近くにいるのよね。観察し放題!」


 陽菜はうれしくてたまらなかった。


 しかし、ふかふかのベッドに寝転んでいるうちに陽菜はいつの間にか眠りの世界へと引き込まれていった。



<時計塔~アリスって・・・・~に続く>

8月中のUP完了に向けて、ちょこちょこ更新。

意外と量があって、すでに焦り始めている模様。

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