時計塔 ~国民登録課~
2025.8.1「時計塔 ~国民登録課~」を更新しました。
ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリス”をモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
20年ほど前に書いた、冬桜初のファンタジーです。
「ああ、ここです“国民登録課”。さあ、入ってください」
アリスに押されるように陽菜が部屋の中に入っていくと、身長が30センチくらいの小さな人間が忙しそうに働いていた。
彼らが着ているものはひらひらとした虹色の服で、陽菜はまるで絵本で見た妖精のようだと思った。
「マーリさん!マーリさん!新しい住人を連れてきましたよ!!」
しかしいくらアリスが呼んでもマーリさんなる人はいっこうに出てこなかった。
「ちょっと待っていてくださいね」
そういうと、アリスはなにやら赤いレンガの床をつま先でコツコツと叩き出した。
“カツン”
ひとつだけ、レンガではないような音がした。
「あった、ここだ」
アリスはおもむろにそのレンガに手をかけると、そのレンガを一気に取り上げた。
そしてそこからは小さな黄色いボタンが現れた。
アリスがそのボタンを押すと、アリスの真上の天井が二つにわれ、そこから赤髪の女の子が椅子に座ったまま降りてきた。
「マーリさん。面倒ですから普通にこの部屋にいてください」
アリスがしかめ面でマーリに注意するが、マーリには効いていないようだった。
「いつまでたってもお前は堅苦しいな、アリス」
「あなたのほうがおかしいんですよ。まったくこの人が課長になるなんて、あの人も何を考えているのか・・・」
アリスがぶつぶつ言い出すと、マーリは耳をふさいで首を横に振った。
「もう相変わらずうるさいな、アリス。私に用があったのだろう?なら、早く言え」
アリスはまだ文句をいいたそうにしていたが、横にいる陽菜を思い出したらしくマーリに話を始めた。
「こちら結城陽菜さん、新しい住人です。マーリ課長、陽菜さんの登録をお願いします」
アリスは“課長”というところにわざと強くアクセントをつけた。
「嫌味はもういいよ。で?登録ね」
マーリは壁から黄色い紙を出し、それを陽菜に渡した。
「ここにあなたの名前を書いて」
しかし、陽菜はペンをもっていなかった。
「すみません。私、書くものを持っていないのですが」
陽菜が恐る恐るマーリに言うと、彼女は二コリを笑って言った。
「ああ、指で書けばいいのよ。書けるから」
陽菜は言われた通りに自分の名前を指で書く。
すると指でなぞったところが黒い線になって浮かび上がってきた。
(私、魔法使いになったみたい!!)
陽菜がうっとりと自分で書いた紙を見ていると、マーリがその紙を横から奪い取った。
「!!」
陽菜は、思わずマーリをにらんだが、マーリは気にも留めずに、奪い取った紙を眺めていた。
「書いたな・・・・はいよ。これで結城陽菜はこの国の住人となりました。おめでとう、“選ばれしもの”よ」
マーリは自分の顔ほどもある大きな判をその紙に押して言った。
※時計塔~「そして陽菜の家は?」~へ続く
休みに入っているはずなのに、更新が滞りがち。
いろいろ中途半端だな。