時計塔 ~不思議な世界~①
20年くらい前に書いた「鏡の国のアリス」をモチーフにした初ファンタジーです。
時計塔までの道のりは意外と遠かった。
それも時計塔は、ずっと見えているにもかかわらずにもだ。
陽菜は初め、アリスがわざと遠回りをしているのかと思っていた。
しかし徐々にそれが違っていることがわかった。
なんとこの世界では、遠くに見えるものは近く、そして近くに見えるものは遠くに見えるのだった。
(不便な世界ね)
だから、陽菜が足元の花に触ろうとすると一番近い花に手を伸ばしても届かず、一番遠い花に手を伸ばせば届くという不思議なことが起こるのである。
「ねえ、アリスさん。なんだか近いものは遠く見えて遠いものは近く見えるんだけど、これはどうなっているの?」
アリスはあきれたように答えた。
「それが当たり前の世界じゃないですか。何を言っているんです」
陽菜は唖然とした。
(こんなの、不便極まりないじゃない!)
陽菜はさらにアリスに尋ねた。
「でも、見えないくらい遠くまで行ったものはどうなるの?」
アリスは当然とばかりに答えた。
「見えません」
「へえ~」
陽菜は納得したようなしないような、複雑な気分だった。
「ほら、時計塔につきましたよ」
アリスは立ち止まり、陽菜の手を引いた。
柔らかなアリスの肉球が気持ちいい。
(癖になるかも・・・)
陽菜はアリスの肉球を触りまくりたい欲求をこらえ、意識して視線を時計塔へと移した。
目の前にあるという時計塔は、陽菜の目にはかなり小さく見える。
実際にその大きさは陽菜の身長の半分ぐらいしかなかった。
「さあ、入りましょうか」
アリスは、なんでもないことのように扉に進んでいった。
書いていて、あべこべな世界をイメージするのが楽しかったのを覚えています。
アリスの肉球も、触ってみたくて仕方がなかった。
その気持ちが文章に表れていますね(笑)