終わり~ 終わりの始まり~
ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリスをモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
『・・・・・・ん、・・・なさん、・・・陽菜さん聞こえますか』
遥か遠くで誰かの声が聞こえる。
どこかで聞いたことのある声だ。
空はピンク色。
どこかで見た事のある風景だ。
「陽菜さん、気がつきましたか?」
目の前に、どデカイ着ぐるみが立っている。
その顔がどんどん近づいてきた。
息が唇に触れる。
「ギャー!」
「いャー!」
アリスに目覚めのキスをされそうになった陽菜は、張り裂けんばかりの声で悲鳴を上げた。
「なにするのよ!」
陽菜はあわてて起き上がりアリスに詰め寄るが、アリスはいつもと変らぬポーカーフェイスで、ため息を一つついた。
「まったく、お姫様は王子のキスで目覚めるものですよ。減るものでもないのに・・・・・・」
「へ、減るわよ!少なくても、私のか弱い心は減っちゃうわよ!!」
陽菜の怒鳴り声に圧倒されることもなく、アリスはなぜかお茶の準備をし始めた。
「・・・アリス、なにしているの?」
アリスは陽菜の問いに、手を止めることなく答えた。
「見て解りませんか?お茶会の準備です。陽菜さんが頑張って一時的にでも戦争を止めるなんて無謀な奇跡を起こしたので、この世界も救われたんですよ。まあ、これも一時的ですが。ということで、お祝いのお茶会です」
一通りのセッティングを終えたアリスは、椅子を引いて陽菜に座るよう促した。
陽菜はそれに従いながら、尋ねる。
「一時的なの?」
「ええ。まったく現代人って者は厄介ですね。信じられないような奇跡が起きても、子どもたちですら「魔法だ」なんて思わないんですよ。わからなくても結果を受け入れるんです。おかげで夢見がちな子どもたちの心しか鏡の世界に繁栄されなかったので、この安定は一ヶ月ぐらいしか持たないでしょう」
そういってアリスはフウ~とため息をついたが、陽菜はその言葉に驚いた。
「戦争止めても、一ヶ月くらいしか持たないの?この世界!!!」
「ええ、だから陽菜さんはこれからも魔法使いとして三次元の世界で人々に夢を与えてください」
アリスは優雅に紅茶を飲んでいる。
「え!私はこれからも魔法使いにならなくちゃいけないの?」
「当然です。・・・・いいじゃないですか。陽菜さん、不思議なことに興味があったんでしょう?それにジュケン勉強のいい息抜きになりますよ」
そういってアリスはニヤッと笑った。
「なっ、なんで私が受験生だって知ってるの?」
「見ていましたから。四次元のこの世界で。陽菜さんをこの世界に招待したのは私ですから」
一瞬、アリスがストーカーのように見えた。
引きかけた心を取り戻しつつ陽菜はアリスに尋ねた。
「じゃあ、選ばれし者って、アリスに?」
「それは安心してください。陽菜さんは本当に選ばれし者ですよ。メリーゴーランドの試練を乗り越えていますから。あれをクリアしたのは陽菜さんが初めてです。良かったですね」
そう、淡々と話すアリスに「じゃあ、試練を乗り越えられなかったらどうなっていたの?」とは陽菜は怖くて聞けなかった。
もし聞いて「戻ってこれなくなる」といわれたら・・・とても耐えられそうにない。
顔が真っ青になった陽菜を横目に、アリスはなにやら楽しそうに紅茶を楽しんでいた。
「ま、頑張ってくださいね。ちなみに、魔法は自分の欲のことには使えませんから、ジュケンは自力で頑張ってくださいね」
アリスは可愛らしい笑顔で陽菜を見るが、とても癒されそうになかった。
「・・・もう、何でも乗り越えられそうだわ。」
陽菜は疲れきっていたが、アリスはそんな陽菜の肩にぽんと手を乗せて言った。
「それは良かったですね。では、がんばってください」
陽菜はアリスの様子に天を仰ぐが、その空は三次元の世界と変らない、綺麗な青空だった。
〈エピローグ へ〉
この「終わり」になったときに、着地点が見つかったみたいでホッとしたのを覚えています。
なんだろうな。。。
「はい!戦争終わってよかったね!」という終わりにしたくなかったので。
ファンタジーなんだけれど、嘘っぽくしたくなかった。
ラスト1話です!