世界を救え!!~思い~②
ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリスをモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
穴から抜けると、そこはふわふわの高級そうな絨毯が敷き詰められた長い廊下だった。
天上には豪華なシャンデリアが一列に並び、古そうな窓からは強い朝日が差し込んでいる。
陽菜は自分の成すべきことを思い出し、立ち上がった。
「急がなきゃ」
音を立てないように、慎重に歩き出す。
幸い、廊下に敷いてある絨毯が、陽菜の足音を消してくれた。
警備員に見つかる前に大統領に会わなければならない。
そして、彼を説得するのだ。
しかし、もし彼が陽菜の説得に応じなければ・・・・
『陽菜さん、あなたは念じることでその人を洗脳することが出来ます。手っ取り早く、大統領の意思を変えてくださいね』
アリスが言った言葉を思い出した。
しかし――
(できれば、大統領の意思で戦争をとめて欲しい!!)
やらなければならないことはたくさんある。
陽菜は“President“のプレートを探した。
(英単語をしっかりやっておいて良かったわ。大統領が英語でなんて解らなかったら大変だもの)
一つ一つ、慎重に扉の文字を確認する。
すると三つ目の扉に、目的の文字があった。
(よし!)
陽菜は覚悟を決めて、ドアの前に立った。
そして彼女がドアノブを掴むと、ドアにかかっていた内鍵が開くのが脳裏に浮かんだ。
そっと中に入ると、テレビでも何度か見たことのあるA国大統領が、大きく、黒光りした机に座り、大量の資料に目を通していた。
「・・・何かな?」
大統領は特段驚いた様子もなく、ただ彫りの深い目を少しだけ大きく見開いた程度だった。
陽菜は、緊張しながらも大統領の前に進む。
陽菜は緊張のあまり、すぐに声は出なかったが、コクリとのどを鳴らすと思い切って彼に話しかけた。
「・・・・・・あの、少しだけお話、いいですか?」
大統領は少し悩んだようだったが、陽菜を部屋の中央にある大きなソファーへ座るように促すと、陽菜と向かい合うように座った。
「話とはなんですか?」
陽菜は思い切って話し始めた。
「あの、戦争をやめてくれませんか?多くの人が苦しんでいます。ただ生きているだけなのに、あなた方が無差別に落としている爆弾でたくさんの人々が死んでいます。すぐに戦争を止めてください」
陽菜の真剣な様子に、大統領は困ったように顔をしかめる。
「私が戦争をしてるんじゃないんだがね」
それは、「違う」と陽菜は思った。
「いいえ、あなたが戦争をしているんです。攻撃の指示を出したときから、あなたの分身は多くの人々を殺しているんです」
「そんなことを言われたのは・・・初めてかな」
彼は一つため息をついた。
(大統領といえど、一人の人間なんだ)
陽菜の言葉に戸惑う大統領を見て、陽菜は気持ちが落ち着くのを感じていた。
「戦争をやめてくれませんか?」
陽菜は、大統領の目を見てハッキリと言った。
しかし、彼はしばらくうつむいていたが、疲れたように大きくため息をついて言った。
「・・・・・・・・・無理だな。私がやめようと誰かが始めるだろう」
「それでもあなたがやめれば、今、この瞬間に人の命が一人救えます」
陽菜は引かなかった。
しかし、大統領は「止める」とは言わない。
けれど、その顔は苦渋に満ちていた。
「たった一人のために、わが国の兵士達の命を投げ出すことはできないよ」
「どうしてもできませんか?」
「・・・・・・ああ、無理だ。」
その言葉を聞いて、陽菜は覚悟を決める。
「では、仕方がありませんね。私は今からあなたに魔法をかけます。けど、本当はあなたの意志でやめて欲しかった」
陽菜はそういうと、小さく呪文を唱えた。
すると、急に陽菜の周りが明るくなり、部屋中がピンク色の霧に包まれる。
そしてその霧は大統領の上で凝縮され、終には小さなピンクパールが生まれた。
その球はすうっと彼の中に入り、消えてなくなっていく。
大統領はその間抵抗することもなく、光に導かれるまま、すうっと深い眠りにとらわれていった。
「起きたら私に関する記憶はなくなっています。戦争をする意欲をなくする魔法をかける間、抵抗をしなかったということは、あなたも本当は戦争を止めたかったということなんですよね、きっと」
そう言って、陽菜は大きな窓からそっと空へと飛び立った。
◆◆◆
大統領との会談から、約1時間後――
陽菜は、戦地の遥か上空にいた。
ここなら戦闘機のレーダーにも映らず、しかも戦況を知ることが出来る。
陽菜の下を玩具のような戦闘機が舞い、地上に爆弾を投下している。
そして、地上は天地逆転していると錯覚を起こしてしまうほど、たくさんの火花が散り、まるで狂ったように花火を上げる花火大会のようだった。
しかし、こんな残酷な風景も終わる。
もうそろそろA国の大統領が目を覚まし、自分の意志で戦争を止めるように議会で発言するはずだ。
そう思ったとき、低空を大量の紙を撒き散らしながら一機の戦闘機が飛んできた。
今まで爆弾を投下していたほかの飛行機は、はいつの間にかいなくなっていく。
戦場をぐるりと大きくその飛行機が旋回すると、次第に発砲の数は減り、やがて戦地はシンと静まり返った。
そして、しばし両陣営はにらみ合った後、徐々に後退していった。
「終わった・・・」
そう陽菜が呟いたとき、突然一人の青年が大量の爆弾を持ってA国の軍隊に突っ込んでいった。
『死ねーーーー!!!』
聞こえないはずの、青年の声が聞こえた気がした。
(なんで?!!!)
陽菜は考えるより先にその青年に向かって飛んだ。
急降下しているため、空気抵抗で身体がちぎれそうだった。
しかし、陽菜は必死になって青年のもとへ飛ぶ。
青年が一つの爆弾に火をつけた瞬間、陽菜は確かに青年を抱きしめ、この爆弾が爆発しないようにと必死に祈った。
そして、辺りに強い爆風だけが吹きぬけた。
けれど奇跡的にも、誰一人傷つく者はいなかった。
ただ、そこに陽菜の姿だけがなかったのである。
〈終わり へつづく〉
次の章が「終わり」です。
やっとここまで来た。
書いてあるものをUPするのになぜ大変なのか。。。
それは、文章をエクセル保存したので謎の空白(行)と””がつくので、それを修正してUPするからです。
「アリス」が一番物語としては長いので、頑張ってこの夏にここに移行したいという思いです。