世界を救え!!~ 簡単な依頼?~①
ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリスをモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
突然目の前に現われたアリスは、何事もなかったように陽菜に言った。
「この歪んだ世界を元の世界に戻すことは簡単です。陽菜さん、世界を救ってください」
「え?」
『世界を救う』という言葉が現実を帯びない。
「陽菜さんが世界を救えばいいんですよ。簡単なことです」
なんでもないことのように、アリスは言う。
しかし、陽菜にはそれがアリスの言うように、簡単なことのようには思えなかった。
「無理だよ!私は何もできない」
そう、陽菜は何の力も持っていない。
普通の人間だ。
しかし、アリスは自信有り気に言う。
「大丈夫、陽菜さんは“選ばれし者”です。陽菜さんはこの世界でたった一人の本物の魔法使いです」
陽菜はアリスの言葉が理解できなかった。
――自分が魔法使い?――
そんなことがあるのだろうか。
自分は普通の人間で、勝手にアリスたちが陽菜を“選ばれし者”にしているに過ぎない。
「無理だよ・・・・私には出来ない」
「いいえ、陽菜さんなら出来ます。先ほども一人の少年を救ったではありませんか」
いや、アレはそうではないのだ。
「救ってなんかない!」
陽菜は本気で怒っていた。
しかし、アリスには通じなく、穏やかな声で陽菜に言う。
「救いましたよ。ご覧ください」
アリスの声に顔を上げると、そこには先ほどの少年の映像が空に映し出されていた。
そして、そこには寝ぼけている少年を泣きながら抱きしめる若い母親が映っていた。
「陽菜さんが少年を救ったのです」
しかし陽菜はそれに納得できなかった。
「今だけだよ。本当に救ってなんかない」
少年を見つけたときは、思い切り抱きしめるだろう。
反省もするかもしれない。
けれど、悲しいことに、そうそう人間は変れない動物なのだ。
陽菜はじっと、自分の足元を見ていた。
そして、アリスに見えないように、悔しそうにギュッと唇をかみ締める。
「今だけでも救えたんですよ。この瞬間だけでも少年は幸せを感じているんです」
アリスは一旦黙ると、じっと陽菜の眼を見た。
「陽菜さん、あなたが出来ることは、たしかに限られています。けれど事実、あなたしかできないこと、それによって救われる人々がいるのです。そして、それが微々たるものでも、その救いが世界中に広がったとき、この世界は救われるのです。すべての戦いが永遠になくなることはなくても、それが有限であっても、それで皆が救われるのです。そして、世界中の人々が幸福や奇跡を感じたとき、魔女キュアーの力は強力になり、鏡の国は救われるのです。だから陽菜さん、世界を救いましょう」
珍しく、アリスの目は慈愛に満ちていた。
アリスらしからぬ雰囲気が、なんだか可笑しかった。
「終わりのない世界の住人がなにを言うの?」
陽菜はあきれたように言った。
「終わりがなくても、今、この瞬間と同じ時間はやってこないのですよ。そして、一瞬の積み重ねが永遠なんです」
アリスは優しく、しかし力強い声で言う。
それに、陽菜は何も答えることが出来なかった。
「だから今、陽菜さんが出来ることをやりましょう」
アリスの目は真剣だった。
そして、陽菜はその目をじっと見た。
陽菜の心は決まった。
「・・・・・・うん。やってみる!」
陽菜は世界を救うと決めた。
〈世界を救え!!~簡単な依頼?~② へつづく〉
やっぱりここも長い!
頑張って更新するぞ!!