鏡の世界へようこそ
「キャー!!!」
いままで恐怖で吐き出せなかった、肺の中の空気をすべて出し尽くすほど、陽菜は絶叫した。
ドサ!!
陽菜は背中を強打して、どこかにたどり着いた。
「イッタ~。もう少しやさしくしてよね」
不思議なことにこの世界に対する恐怖は無かった。
さっきまでのこのまま永遠に、真っ暗な穴の中に落ちてゆくのかもしれないという恐怖に比べたら、とりあえずはどこかの世界に来られたという安心感がある。
それに、もしかしたらあの本を読んで異世界について少しでも知っていたからなのかも知れなかった。
「ようこそ、終わりの無い鏡の世界へ。あなたは永遠なる世界を手に入れました」
ウサギは軽く会釈をしていった。
「あの、突然のことでよくわからないんですけど、ここは鏡の中の世界?」
「ええ、そうです」
ウサギはこともなげに言った。
陽菜は、うれしくて胸がドキドキしていた。
本当は飛び上がるほどうれしかったが、陽菜はなるべく冷静を装った。
「へ~、本当に来ちゃったんだ。ところで、何で空がピンク色なの?」"
「ああ、それはあの塔にいる魔女のせいですよ。そのときの気分によって勝手に空の色を変えてしまうんです。困ったものです」
ウサギはやれやれといったように首を横に振った。
ふと、陽菜は肝心なことに気づいた。
「ところで、あなたは誰?」
「私ですか?私はここの案内役ですよ。この世界は終わらない世界でもあり、永遠に変わらない世界でもあるんです。だから変わらないためにもいろいろな法律がこの世界にはあります。新しくこの世界に来た人のためにいるのが私たち“トラー”の仕事なんです。」
「じゃあ、ずっとわたしのそばにいるの?」
陽菜は少し期待をこめて聞いた。
「ええ。規律にあるように一年間は。それが私たちの仕事なので」
陽菜は純粋にうれしかった。
とりあえずは、まったく知らない世界でたった一人という状態は回避された。
さすがに、全く知らない世界で一人で行動するには不安があった。
(それに、不思議な生き物と一緒にいられるなんてこんな経験できないもんね!)
陽菜は楽しくて仕方がなかった。
「では、そろそろ行きましょうか」
突然ウサギは歩き出した。
「待って!どこに行くの?え~と、トラーさん?」
ウサギは立ち止まり、陽菜を見る。
「私の名前はアリスです。それで、これから行くところは時計塔。あなたをこの国の住人として登録しなければなりませんので。さあ、早く」
陽菜は“ウサギがアリスかい!という突っ込みを抑えて、黙ってアリスについていった。
「ウサギの名前をアリスにしよう」
思い付きで名付けてから、ウサギのアリスは暴走し始めた気がします(笑)
真面目に書き始めたはずなのに、この頃からおふざけが始まって書くのが楽しくなってきたように思います。