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アリス  作者: 冬桜
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三次元の世界へ ~悲しい男の子~

ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。

そこで、ウサギのアリスと出会う。


鏡の国のアリスをモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。

 ふと気がつくと、陽菜は夜空に浮かんでいた。


 そしてすぐ近くには、これまで見たことも無いほど大きく赤い月がある。


 陽菜はゆっくりと体を反転させ、地上を眺めてみた。


 そこから見えたのは、遥か遠くに東京タワーの電燈。


 そして、夜空に輝く億千の星を撒き散らしたような、あふれるほどの人工的な光。


 そう、ここは有限の世界・・・・


 もとの三次元の世界だった。


「うそ。戻ってきちゃったの?」


 陽菜には、自分が三次元の世界に戻ってきてしまったことが信じられなかった。 


 ――鏡の国はどうなったのだろうか?――


 陽菜の胸に不安が過ぎる。


 鏡の世界のゆがみを処理してきた魔女キュアーは消滅しつつあるといっていた。


 だから陽菜、つまり”選ばれし者”が必要なのだと。


(鏡の国は・・・夢の世界は消滅してしまうかもしれない!!)


 陽菜の思いとは裏腹に、身体はフワフワと浮いている。


 そして、風のない場所で飛ばしたシャボン玉が割れずにフワフワと降りてくるように、陽菜は地上にゆっくりと降りていった。


 するとそこには、夜も更けて(ふけて)いるというのに、一人公園でブランコに乗っている7歳くらいの少年がいた。


(こんな時間に小さな子が一人で外にいいるなんて・・・)


 辺りを見回し、男の子の親を探すが見当たらない。


 陽菜は心配になって、その少年に近づいていく。


 そして、小さく屈んでその男の子と目線を合わせた。


「ぼく、もうお家に帰らないと。こんなところにいると、危ないよ?」


 少年は一瞬、陽菜の呼びかけに顔を上げたが、答えることなくまたブランコを漕ぎ出した。


 陽菜は懲りずに再び少年に呼びかけてみる。


「ねえ、ぼく?」


 再び呼びかけた時、陽菜は少年の顔が腫れ上がっているのがわかった。


 なんとなくその傷に触れようと手を伸ばすと、少年は顔を上げ、陽菜の手を振り払った。


「さわんな!!!」


 鼓膜が割れそうなほど大きな声で、少年は叫ぶ。


 その小さな身体から発したとは思えないほど、大きな声だった。


 しかし・・・その顔は涙で濡れていた。


「ねえ、どうしたのその傷?痛いでしょう。冷やしてあげるよ」


 そう言ってはみたものの、近くに水道は無く、冷やすものも見つからない。


 陽菜は仕方なく、冷やすのではなく、少年の傷の深さを確かめることにした。


「ねえ、傷見せて?」


「嫌だ」


「だって、酷そうだよ?」


「うるさい!!」


 少年はそのまま駆け出そうとしたが、足も痛めているらしく右足を引きずっていた。


 少年は必死になって、陽菜から離れようとするが、その足取りは重かった。


 陽菜はすぐに少年に近づき、後ろから抱き上げる。


「やめろって!」


「傷を見せてくれたらいいよ」


 陽菜は出来るだけ優しい声で言う。


 すると少年は観念したのか、急におとなしくなった


 近くで傷を見ると見た目よりひどく、しかもよく見ると全身痣だらけで痛々しかった。


 (かわいそうに・・・。冷やしてあげたい)


 陽菜はそっと少年の腫れ上がった頬に触れた。


「冷たい!」


 男の子は、肩をすくませ悲鳴を上げた。


「え?」


「お姉ちゃんの手、冷たくて気持ちいい」


 そう、陽菜の手は冷却材のように冷たくなっていたのだ。


「じゃあ、このままにしていようね」


「うん」


 そのまま陽菜はしばらく少年の頬を冷やし続けた。


 あたりは不気味に静まり返っていた。 


「ねえ、誰にされたか聞いていい?」


「・・・・・・・・・おかあさん」


「そっか」


 なんとなく感じていた悪い予感は当たってしまった。


 (どうしてこんな酷いことをするんだろう)


 陽菜がそう思っていると、まるでその声が聞こえていたかのように少年が言った。


「お父さんが・・・・・・・俺のこと嫌いだって。だから、お母さんは捨てられたんだって。・・・・・・僕は悪い子なんだ、だからお母さんは僕のことを嫌うんだ!!!」


 陽菜は一瞬、何も言うことができなかった。


 けれどしばらく考えて、しかし、平凡な答えしか浮かばなかった。


「――そんなことないよ」


 言葉が上滑りしていたことはわかっていた。


 そして、少年はそれに答えることは無かった。


「あ!!!」


 沈黙を打ち破るかのように、突然少年は目をキラキラさせて陽菜を見た。


「おねえちゃん、魔法使いみたいだね!」


「え?」


「だって、空飛んでた。俺ね、魔法とか奇跡とか神様とか信じていなかったんだ。だって俺のこと誰も助けてくれないんだもん。でも、いたん・・・だ・・・ね・・・」


 そういうと電池が切れたように眠りについてしまった。


(秒殺!!!かわいいなぁ~)


 陽菜は、穏やかな顔をしてすやすや眠る少年の頬をつついて笑った。


「疲れていたんだね」


 ――さて、この少年をどうしようか――


 陽菜が思い悩んでいると、遠くから子どもを捜す女の人の声が聞こえてくる。


 きっとこの少年の母親だろう。


(さっさと渡すべきか・・・・)


 一瞬そう考えたが、陽菜はあることを思いつくとすっと飛び上がり、母親の声がするほうではなく、少年の自宅に向かった。


(このくらいの意地悪は許されるよね)


 陽菜は古い団地の一室で少年を布団に寝かせると、少年の母親に手紙を残した。




 “世界一大切な宝物をお返しします。


 魔女より“





 そして陽菜は自宅に向かって飛んでいった。


 〈三次元の世界へ~陽菜はいない⁈~ へつづく〉

8月中UP完了に向けて、邁進中・・・

最終章に入りました!


今読み直しても、この場面は胸がギュッとします。

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