三次元の世界へ~逃げ?~
ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリスをモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
そっと、その泉の水に手を入れてみる。
突き刺すほどに冷たい水は、しかし柔らかく陽菜の手を包み込んだ。
唐突に、陽菜に罪悪感が襲い掛かる。
――アリスから、この世界の危機から逃げ出してきてしまった――
陽菜は行き場のない悔しさと悲しさでいっぱいだった。
水辺に座り込み、素足になって泉に両足を浸す。
そうすると、興奮していた頭の熱も取れ、陽菜は次第に冷静になっていくようだ。
「これからどうしようかな・・・」
アリスのところへ戻ろうにも、どうやって戻ったらいいのかわからない。
確か、以前にもこんなことがあった。
あれはたしか、トランプ遊園地で幼い頃の過去に行っていたときだ。
あの時は、アリスの形をしたぬいぐるみが――アリスが助けてくれた。
だから戻ってこられた。
けれど今回はそのアリスから逃げ出したのである。
普通に考えても、そ知らぬ顔をして戻れるはずも無い。
パシャパシャと両足で水面を叩く。
上がったしぶきが光に照らされ、水晶のように光っていた。
陽菜がそれに見とれていると、にわかに水面が渦を巻き、陽菜の両足を巻き込む。
「!!!」
陽菜はとっさに足を引き上げようとするが――
「嫌!!」
陽菜は、より強く両足を引き抜こうとするが、それよりも吸い込む力のほうが遙かに強く、体が水中に引きずり込まれる。
両手だけが地面を弱々しく掴んでいた。
陽菜は引き込まれないようにするのが精一杯で、助けを呼ぶ声すら出せない。
(誰か、助けて!!)
声にならない悲鳴が、陽菜の中でこだまする。
一本一本指が離れていく。
力をこめても、どこに力を入れていいのかわからない。
手のひらにかく冷や汗は、指を滑らせるだけだ。
「あっ・・・」
ついに、陽菜は湖の中へと引き込まれてしまった。
そして、泉の周りには静寂が残った。
〈三次元の世界へ ~悲しい男の子~ へつづく〉
8月中UP完了に向けて、邁進中・・・
最終章に入りました!
空いているときにちょこちょことUPします。