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アリス  作者: 冬桜
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アリスとウサギと昔の陽菜~懐かしい場所~

ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。

そこで、ウサギのアリスと出会う。


鏡の国のアリスをモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。

 丸一日を使って陽菜はこの場所をじっくり確認をする。


 幼いころに見た夢の世界は、実際の世界として陽菜の前に現れていた。


 やがて空に星が輝きだすころ、陽菜は歩き疲れ、すっかり暗くなった空を寝転がって見ていた。


 夜空にはケンタウロスが槍を持ち、小熊を追いかけている。


 また白鳥は悠々と空を舞い、月からはウサギが降ってきた。


 陽菜はその光景を眠気眼ねむけまなこで見やり、そのまま本当の夢の世界へ引き込まれていくのだった。


 ◇◆◇


 刺すような強い朝日で目を覚ました陽菜は、無意識にフカフカのぬいぐるみを抱きしめた。


「も少しだけ・・・」


 そう言って、寝返りをうとうとした瞬間、そのぬいぐるみから大音響で目覚まし時計の音がジリジリと鳴り響く。


「う、へ?うわーーーー!なに?」


 思わず手に持っていたぬいぐるみを投げ捨てると、その音もぴたりと止んだ。


「なんなの?!・・・いったい」


 陽菜は音の正体を確認するために、のそりと立ち上がると、それのそばまで近づく。 


 大音響を鳴らした犯人は、タキシードを着たウサギのぬいぐるみだった。


 陽菜にはそのぬいぐるみに見覚えがあった。


 それは、幼いころに初めて父が買ってくれたウサギのぬいぐるみだった。


 陽菜の父は医者でありながら、自分の体調管理には疎く、陽菜が五歳になる前に風邪をこじらせ肺炎になり、この世からいなくなってしまった。


 しかも、家族より患者優先であったため、陽菜の誕生日を祝ってくれたのは三歳のときだけだった。


 そのときにくれたのが、このウサギのぬいぐるみなのだ。


 このぬいぐるみは、陽菜にとってたった一つの父との思い出の印。


 幼いころの陽菜は、これを肌身離さず持ち歩き、白ウサギが茶色のウサギになっても、もうぬいぐるみを抱いて寝るような歳ではなくなっても、それでも大事に持っていた。


 しかし、ある日陽菜が学校から帰るとウサギがいなくなっていた。


 陽菜は必死になって家中を、そして家の周りまで丹念に調べたが、まるで神隠しにあったかのようにその切れ端さえも見つからなかったのである。


 それでも諦め切れなかった陽菜は、ダウジングなど不思議なものを調べ始めた。


 しかし、時が経つにつれてウサギを探すことを忘れ、不思議なことを調べることが目的になっていったのだった。


「懐かしいな、これ。確か名前付けていたんだよね。え~と、何だっけ・・・・・・ア、リス・・・


 そうだ、”アリス”だ!!」


 その名前にふと引っ掛かりを覚えたが、考えても思い出すことが出来ず、とりあえず久々のぬいぐるみのアリスとの再会を喜んだ。


 しかし、可愛いはずのアリスをよく見ると、なんだが目つきは悪く、ぬいぐるみのくせに眉間に三本皺しわがある。


「昔はかわいくて仕方がなかったのにね。でも、このアリスもかわいいな~」


 アリスを見ているとなんだか不思議な気分になる。


 なんだか大切なものを忘れているような・・・・


 大切な使命があったようなそんな気がして仕方がない。


 けれどそれがなんなのか見当も付かず、ただ心の中に消化できないモヤモヤが溜まるばかりだった。


 陽菜は難しいことを考えることをやめ、気分を変えるためにもうてっぺんに届きそうな黄色い太陽を見上げた。


 太陽はレモンドロップよりも濃い黄色で、お母さんが作ってくれる目玉焼きの黄身のようだ。


 刺す日差しは強いわりに暑くなく、五月のような清々しさがある。


 すると、陽菜の脳裏にふと、あるものが浮かんだ。


「青いプラスティックに入ったタイムカプセル・・・・・・あれはどこにいったんだっけ。」


 陽菜は小学校に入る前にたくさんの宝物を入れたタイムカプセルがあったことを思い出した。


 そのタイムカプセルの入れものは、図鑑で見た、宇宙から見た地球のように綺麗なブルーだった。


 だからこの中に宝物を入れれば、きっと永遠にこの楽しい時間が終わらないと信じたのだ。


 けれど、たくさんの月日が経って、タイムカプセルを作ったことも、たくさんの宝物を入れたことも今まで忘れていた。


 陽菜は何かに導かれるように、すっと立ち上がり、大きな桜の木の根元を掘り出した。


 素手で必死で掘ってもなぜか手が痛くなることはなく、ただひたすらに、導かれるままに掘り続けた。


 そして・・・


 カチ・・・


 ついに爪の先に何か硬いものが当たった。


 陽菜は発掘でもしているかのように慎重にそれを取り出すと、少し色あせた、けれど青いプラスティックの丸い入れ物が出てきた。


「あった」


 陽菜は、そこにこれがあることが不思議なような、けれど必ずあると確信していたような不思議な気持ちでそれを眺めた。


 そっと開けると、中には色とりどりのビー玉が詰まっていた。


「何でこんなものが宝物だったんだろう」


 陽菜は幼いころの自分が解らなくて、けれど可笑しくなってケラケラ笑い出す。


 そして、大小色とりどりのビー玉を一つ一つ太陽の日の光に当てると、中に詰まった酸素が乱反射を起こし、炭酸水の泡のようにキラキラと光っていた。


「きれー」


 陽菜はそれが自分の夢の一つ一つであるような気がした。


 すべてがキラキラ光って、大小色とりどりの夢たち。


 けれど大人になるにつれ、持っていた夢や希望は、現実の渦に飲まれ忘れ去られていってしまう。


 それを失くさないように、地球のように青いカプセルの中に閉じ込めた。


 そんな気がした。


 すると突然、ぬいぐるみであるはずのアリスが立ち上がり、陽菜のほうへやってきた。


 『見つけましたね。合格です。では、こちらの世界へ戻ってきてください』


 それは確かに“アリス”の声だった。


 そう陽菜が思うと同時に、陽菜は強い突風に巻き込まれ、東の空のまだ出始めの白い月の中へと吸い込まれていった。


 〈アリスとウサギと昔の陽菜~選ばれし者の答え~ へつづく〉

8月中UP完了に向けて、邁進中・・・

いよいよ後半戦へ

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