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ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリスをモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
(イタ、痛い・・)
陽菜はチクチクと頬を鋭いもので軽く突き刺すような痛みで目を覚ました。
陽菜が目を開けるとそこにはトランプの体をしたナイトたちが、陽菜の体をチクチクと槍のようなもので刺している。
「何するのよ!」
陽菜が怒って、彼らが陽菜に向けていた槍を押しやると、トランプの体をしたナイトたちは一瞬驚き、しかし今度は皆で槍を陽菜のほうへ向けた。
陽菜は鋭い槍の先に囲まれ、身動きが取れない。
「私が何をしたというのよ!!!」
陽菜がヒステリックに叫ぶと、ハートのエースのマークがついたナイトが一歩、陽菜のほうへ進んできた。
「ほかの世界の者たちの侵略を守るため、ここは進入禁止の場所です。なぜあなたはここにいるのですか?」
淡々とハートのエースのナイトは陽菜に質問をしてきた。
「なぜって・・・、こっちが聞きたいんだけど?ここはどこなの?」
陽菜はすがるようにナイトたちを見回す。
ナイトたちは困惑したように陽菜を見た。
しかし、答えたのはやはりあのハートのエースのナイトだった。
「あなたはどこにいるのですか?どこにいたいのですか?この世界はあなたが行きたいところにしかいけません。ならば私たちよりもあなたのほうが、ここがどこだかお分かりになるのではないのですか?」
ハートのエースのナイトは、意味不明の言葉を言う。
そう言われても、陽菜は勝手にここに連れて来られた身なので、いくら考えてもここがどこだがわからないのだ。
陽菜はだんだん怒りが湧いてきた。
(そんなのわかる訳がないじゃん。私が行きたい場所って、そんなの・・・・あれ、もしかして?)
しかし、陽菜は一つの場所を思い出した。
そこは陽菜が幼いころから夢で見た場所であり、不思議なものに興味を持ったきっかけの場所でもあった。
そう思って陽菜が改めて周りを見渡すと、周囲の景色は一変していた。
そこには、夢の中にあった大きな一本の桜の木やその枝にぶら下がるブランコ、そして大好きだったウサギのぬいぐるみが転がっている。
「そうだ、ここは・・・私の夢の中の世界だ」
陽菜は起き上がり大きな桜の木に駆け寄ると、腕が回らないほど太い幹に抱きついた。
(そうだ、辛いとき・・・怒られたとき・・寂しいとき・・・いつもここに来てこうしていたんだ)
陽菜は懐かしさを覚えながら、そのまましばらくじっとしていた。
その世界は優しく風が吹きぬけ、甘い花の香りに包まれていた。
しかし、ふと先ほどのトランプのナイトたちを思い出し陽菜は後ろを振り返ったが、そこにはもう誰もいなかった。
「どこにいっちゃったんだろう」
陽菜は不思議に思って辺りを見回すが、どこにも見当たらない。
しかたなく、しばらく陽菜は、自分の夢の世界の中を確認するように歩いていた。
この世界は、本当に陽菜が幼いころ夢に見ていた世界そのもので、じっと見ていても何一つ異なるところはないようにみえる。
「でも、私がここに来たいと思ったから、ここに来たのよね・・・多分」
いつの間にか消えてしまった、トランプのナイトの話から推測すると、そうらしい。
「でも、私は何しに来たんだろう」
いくら考えても思いつかない。
ただ、陽菜が回転木馬の上で意識を失う前にアリスが言った“選ばれし者”かどうかわかるという言葉が、ここに陽菜が来た理由なのだろうということはなんとなくわかっていた。
〈アリスとウサギと昔の陽菜 へつづく〉
8月中UP完了に向けて、邁進中・・・
あと半分くらい