選ばれし者
ある日、鏡の中から出てきた手に引っ張られて「鏡の国」へやってきた陽菜。
そこで、ウサギのアリスと出会う。
鏡の国のアリスをモチーフにした、とても不思議な世界を主人公の陽菜が旅をするお話です。
「え?アリス?」
突然陽菜は、薄暗い大きなテントの中へと押し込まれる。
テントの中は、ボヤ~ッとした裸電球の明かりだけで、その明かりだけでは中の様子全体を見ることは出来なかった。
「ここは・・・・・・ねえ、アリスはどこ?」
陽菜はこの空間独特の怪しい雰囲気に怖くなり、大声でアリスを呼んだ。
しかし、陽菜の声は、むなしく反響するばかりで、アリスの返事は一言も返ってこない。
「なんで?遊園地に来たつもりなのに・・・サーカスじゃん!!」
ここにいないアリスに、小さな声で文句を言うが、もちろんアリスからの反応はなかった。
そのとき、突然陽菜の立っていた床が抜ける。
「え?」
陽菜は驚きのあまり叫び声も出せずに、ただ落ちていくだけだった。
しかし、長い長い落とし穴をしばらく落ちていると、不思議とだんだん冷静になってきた。
「私、この世界では落ちてばかりね。落ちることに縁があるのかしら?一応、受験生なんだけどな・・・」
陽菜の言葉も、暗闇に吸い込まれていく。
陽菜は、どんどん落ちていき、ついに目が眩むほど明るい場所へとたどり着いた。
陽菜は、あまりの眩しさに目を開けていることも出来ず、目がなれるまでギュッと強く目をつぶっていた。
「真っ暗なところから、こんなに明るいところに急に来させるなんて・・・目に悪いじゃないの!!」
毒づいても、誰も応えてはくれない。
しかし徐々に陽菜の目は、この明るさに慣れてきた。
そこで陽菜は、恐る恐る目を開ける。
するとそこは、どこを見ても真っ白で、果てが見えない部屋の中に、一台の回転木馬があるだけだった。
『陽菜さん。君はそれにのって、この世界の試練を受けるのです』
姿はないのにどこからともなく、アリスの声が聞こえてきた。
「アリス、どこにいるの?ここはどこなの?ねえ、答えて!」
陽菜は何も見えない天井に向かって叫んだ。
『陽菜さん、あなたは本当にこの世界の “選ばれし者”かどうか確かめなければならなりません。いいですか、ここにあるのは”夢の回転木馬”です。あなたが本当に”選ばれし者 “ならば、次のステージに進むはずです。さあ陽菜さん、回転木馬に乗ってください』
陽菜はしかたなく、アリスの言うとおりに怪しげな回転木馬に乗る。
ところが、陽菜が乗ってもその木馬が動き出すことはなかった。
しばらくの沈黙の後、アリスが陽菜に話しかけた。
『陽菜さん、何も起こりませんか?』
遠くからアリスが不安気に問いかける。
「うん。なにも起こらないよ。」
陽菜は何も起こらないことに少しほっとしながら、しかし残念そうにいった。
『おかしいですね・・・』
アリスはそういうと、黙り込んでしまった。
陽菜は仕方なく、木馬の上で足をブラブラさせ、木馬の頭についている角を手前に引く。
「???」
木馬の角が動くことを予想していなかった陽菜はバランスを崩し、思わずその角にしがみついた。
ゴン・・・
機械が動き出す時の特有の鈍い音がし、突然木馬は動き出した。
「う、え?アリスー!」
陽菜は予想外の木馬の動きに、どこかにいるアリスに助けを求めた。
「アリス、助けて!」
陽菜が力の限りもう一度アリスを呼んだ。
『陽菜さん、どうしました?もしかして、木馬が動きましたか?』
落ち着いた・・・というよりむしろ喜んでいるような声でアリスが答える。
「アリス、何が起きるの?私はどうなっちゃうの??」
陽菜は必死にアリスに尋ねた。
『陽菜さん、がんばってくださいね!』
しかしアリスは陽菜の疑問に答えることはなく、嬉しそうに、場違いなエールを陽菜に送った。
いつの間にか木馬の回る速度は上がり、目を回すほどの勢いで回転していた。
「アリス~、助けて~」
『陽菜さん、いってらっしゃい。』
陽菜とアリスの会話は噛み合うことなく、次第に陽菜は気を失っていくのだった。
〈中へ へつづく〉
8月中UP完了に向けて、邁進中・・・