したたる血…… それは現実になるかもしれなくて……
すみません。8話抜けてたみたいで修正してます。
読んでない方はエピソード8も宜しくお願いします。
これは明日の予約分でご報告が遅れるのですが。
活動報告に書きます。
12話
私は夢の中で剣を握っていた。とても軽い、細身の剣を。そしてその剣には血がしたたり落ちていた。目の前に倒れている人がいる。誰なのかはっきりわからない。ただ、心は恐怖に戦いていた。
ここでも安全はない。
その事実に絶望感を抱いた。そこへあふれる光が差し込む。
私は目を覚ました。
「夢、だったのね」
ぽつん、と言う。
フリーデがカーテンを開けて夏の光が入ってきていた。
「おはよう」
「おはようございます。・・・どうなさいました? ご気分が悪いのですか?」
「いいえ。・・・いいえ」
否定するけれど、声が震える。手に着いた血の匂い。知らないのに今の私の手にも着いている気がして体を自然と自分で抱きしめていた。
「失礼します。・・・お熱が! すぐ医師を呼んで参ります。いえ、その前にクルト様に!」
「クルトに?」
私は不思議そうにフリーデを見上げる。
「エミーリエ様にとって一番大事な方に伝えず、どうするのですか! しっかりなさってください!」
一瞬、フリーデがお母様に見えた。ぎゅっと抱きしめられる。懐かしい感触だ。フリーデは泣き出した私にハンカチを握らせると駆けていく。すぐにクルトが飛んできた。フリーデはいない。目で探すとクルトが即答する。
「医師を呼びに行った。夏風邪を引いたのかもしれない。心配は無い。この時代にはそう危ない病気はないんだ。昔、クリスタ王女がかかった奇病も今ではしっかり対応できる。何か飲みたいものはない? 脱水症状を防がないと。熱が出ている。額とわきを冷やして。首でもいい。フリーデにしてもらって。俺は流石にレディの体に触ることはしたくない」
「って。抱きしめてるじゃない」
「服をちゃんと着てるからね。夫ならまだしも。まだ婚約者にもなってない。未婚の女性にすることじゃないよ。さぁ、何が飲みたい?」
「昨日飲んだ、あのアールグレイのアイスティー」
「わかった。フリーデが医師と戻れば作ってもらうよ。それまで寝ていた方がいい」
クルトが腕を離そうとしたけれど、私はぎゅっとしがみついた。
「剣を持っていたの。誰かを殺したの。それが怖くて・・・」
「王家の人間は何かの拍子でそんな事に巻き込まれる。怖くないよ。そんな事態に陥った人間は何人もいる。それが悪い時とは限らないんだから。自分を守るためにするときもある。そういう事だよ。そんな怖いことは俺がさせない。だから、安心して。さぁ、もう。横になった方がいい」
「うん」
まるで小さな幼子になったように答えると寝台に横たわる。そのすぐ後にフリーデが飛び込んできた。
「こちらです。エミーリエ様。もう大丈夫です。クルト様。ここは医師と女性だけにする方が・・・」
「わかった。じゃ。飲み物をもらってくるよ。すぐ戻るからね。大丈夫」
髪の毛にクルトはちゅーと言って口づけをすると飛び出ていった。案外クルトも落ち着いた振りをしていたのかもしれない。大事な人が突然病気になれば誰もがうろたえる。クルトはそうならないようにしてくれていた。誰よりも気にかけてくれていた。そういう事がなぜだか解った。魔力を共有した相手とは気持ちが通じ合うという。お母様とお父様もそう言っていた。でも、魔力を私は共有していない。心は通じない。なのに、クルトの気持ちがなんだかわかった気がした。ぼんやり考えている間に診察が終わり、フリーデの言ったとおり夏風邪だった。疲れがでたのだろうと言われた。あれだけ寝ていて疲れも何もないけれど。フリーデに体をふいてもらって新しい寝間着に着替えるとすっきりした。すぐに薬が効いて眠くなる。だけど、クルトの声が聞きたかった。一生懸命瞼をあけているとクルトの姿が見えた。ほっとしたその瞬間、また夢の中に私は落ちていったのだった。
次の一話で一度今日の予約は終わります。でも帰ってきたらPVで喜んでまたあげるかも。
ここまで読んでくださってありがとうございました。