文明開化。だからあんたはデリカシーないのよっ。
夫となる相手が優しすぎてのれんに腕押し。こんな奴、普通にいるのか?
なぞなクルトくんです。
多きPVありがとうございます。度肝を抜かれております。
10話
私は、ふっと目が覚めた。見慣れぬ天蓋に、ああ、目覚めたのか、と思う。ここは未来の世界。私の知っているものがほとんどない世界。だけど、おじい様の生まれ変わりがいたり、恥ずかしがりやのフリーデがいる。お姉さんになってと始めて人に甘えた。クルトは論外。どうせ、旦那になるんだもの。甘えたってバチは当たらないわ。それにクルトは私が何しても怒らない。どこまで心が寛容なのかわからない。だけど、その心の奥に何かあるような気がしていた。もうクルトと結婚するつもりの自分にも驚く。逃げ出して一人で生きていこうと思っていたのに。だけど、言葉も違う。ここにいるしかなかった。
控えめなノックの音が聞こえた。
フリーデだわ。
「起きてるわ」
そう言って扉を開けに行く。
「お召し替えのものをご用意しました。こちらにお着替えください」
また、袖の短いものと丈の短いスカートというものだった。ドレスはそれなりにあって裾が長いらしい。最近の王室では始終ドレス姿でなくていいという。珍しいわね、となんとなく自分の生きていた時代と比較する。比較しようもないんだけど。
「それでは食卓の間にクルト様がお待ちです。朝食を一緒にとのことです」
「クルトが?」
はい、とにこやかにフリーデは答える。その仰々しい態度が嫌でフリーデに文句を言う。
「お姉さんになって、って言ったはずよ。もう少し親しくして」
「と、言われましても・・・」
「と、言っても、よ。はい」
「・・・と、言っても、ですか?」
「ですか、いらないの」
「エミーリエ! フリーデ困らせるんじゃないよ」
フリーデの少し向こう側からクルトの声が飛んでくる。
「はいはい。さっさと着替えるわよ。私は騎士の娘なんだから、大仰なことはなし! いいわね!」
「は、はい」
強気に出るとフリーデも諦めたようだ。なんとかここの友達作りをと必死になっていた。一人は寂しい。昨日、眠りに落ちていく時にふいに思っていた。この世でたった一人。未来へ来た人間。ヴィルヘルムもおじい様だけど、やっぱり違うわ。一人きり感が強まっていた。
「あ。いけない。考え事に時間を取られたわ」
頭の中から不安を追い出すように振って着替える。そういえば、部屋を涼しくする機械もあるわね。電源、と言ったかしら。それを切るには・・・。
「えーっと」
「こうするんだよ」
「クルト!」
クルトが長方形の物を持って何かを押す。ぴ、っと言って機械の冷たい風は止まった。
「エアコンとも言うけれど、空調とも言うんだ。夏と冬に大活躍するから使い方は覚えた方がいいね。さぁ朝食だ」
「って。あなた、女の子の寝室に来るなんてなんてデリカシーないのよ!」
思わず手が出そうになって慌てて止める。姫君はそう暴力的にはならないものよ。お母様の声が聞こえてきたようだった。涙がでそうになる。
「ク・・・ルト?」
いつしか私はクルトに抱きしめられていた。
「ごめん。俺の行動で誰かを思い出したんだね。つらいね。一人は」
わかっていてくれた。クルトは。誰も解らないと思っていたこの気持ちを考えていてくれた。それだけで私は嬉しかった。涙がぽろぽろこぼれる。
「エミーリエ?」
「ありがとう。気持ちを解ってくれて。お母様を思い出したの」
ぐすぐす言いながら言う。クルトは回したその手にぎゅっと力を込めて抱きしめてくれた。人のぬくもりが改めて大切に感じた時間だった。
PV100越え記念にまた投稿しております。すごいな。ほんと。短編扱いもすごくてびっくり。昔来たときそんなにあったかしら。レベルが上がっていることを祈る日々です。ここまで読んでくださってありがとうございました。続きをどうぞ。