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意魂 #9

道中で出会ったクウゲンと名乗る謎の老人に旧くからの友人の家に案内され行き着いた先は、上級貴族の家である伏見邸であった。そこで出会った伏見家の当主である兼頼から武術を習うことになった次郎は、これから本格的に鍛錬を重ねることになる。


道場に近づくにつれて徐々に大きくなる数を数える声と、素早い足運びの音。


「は、早いですな。前久殿。」

 

廊下を走ったおかげで息切れを起こしている次郎を前久は真剣な顔で目線を向ける。


「この陽高を守るために何でも出来るようにせねばな。」

 

次郎はその時、前久から覚悟を感じた。伏見という都に住むことを許された限られた家の下に嫡男として生まれた者の覚悟を。


流石と、上から考えはしたものの次郎には一切の目標などこの時は浮かんでいなかった。


昼になり休憩を挟む次郎と前久であったが、兼頼は突如として勝手なある決定をした。


「よし!決めた!お主らには、明日の高筑会(こうづきえ)に出てもらう!」

 

《高筑会とは、陽高の都にて昔より行われている武術の大会であり、現在では各地にこの行事は広まっている。


この大会では、主に戦闘に適しているかを判断する材料になり、今後の役職に大きく変化をもたらす。


その上、都であるためそれは顕著であり、老若男女の下級貴族らが自らの生死を賭けてこれに参加する。》

 

次郎はあまりピンときていないような素振りであったが、前久は驚きの表情であった。


それもそのはずである。普通は、未だ当主にもなっていないような傍から見れば未熟な者に、命を賭して戦うような大会には決して出させないものだからだ。


ましてや、伏見家ともなる上級貴族の家であるため一層増して衝撃が大きかった。

 

兼頼は、この大会に出るにあたり、次郎に対して偽名を与えた。


「よし、これからは伏見小佐丸(こすけまろ)と申せ!」

 

何故かニコニコな兼頼に次郎は不気味さをも覚えていた。


そして、兼頼は参加の意思表示をするべく執行部へと向かい、参加を確定させた。


夜も更けて、次郎らは自らの部屋にて休息をとっていた。


やはり、明日のことで頭が一杯で破裂間近であった。


次郎は、未だ兼頼から教わった魂を理解できておらず失敗を怖がっていた。


反対に前久は、武者震いであろうか自信で溢れていた。


体で感じた1日が先日よりも早く終わった。


休暇四日目。


しっかりと覚悟はできている次郎と、しっかり土台ができていて自信に完全に覆われている前久。この2人それぞれの対戦が始まろうとしていた。


舞台は、都の中心街から少し外れた土俵の上。


土俵を囲うように出場する家の側近らや、軍配を担当する者、そして評議員として現中納言や少納言の姿もみられた。

 

日が昇ってまもなく、開会した。


1回戦目。先に対戦するのは前久であった。


「左手、東軍より伏見大納言は御曹子。前久。」

 

堂々たる姿で土俵へと上る前久。


「右手、西軍より宇都宮(うつのみや)少納言和秀(かずひで)。」

 

和秀からは何やら負のオーラが溢れ出るほどに、心身ともに精一杯といったところであった。


しかし、和秀、前久両名に共通しているところも中にはあった。


それは、共に強い意志を持っていること。前久は陽高を守れる立場になる為に、和秀は負の意志ではあるものの生命を保つため、人間の尊厳を維持する為にこの土俵にのっている。

 

行司の合図により始まった。両名、同じ丈の打刀を始まって同じ時に抜くと、鉄の弾く音が都の中心街を響かせる。

 

これは、接戦であった。和秀が、前久から目線を僅かに落としたその短い隙をついた前久に軍配が上がった。


和秀は、首の皮1枚繋がりはしたものの、軍配は前久に上がった。

 

そして、これを見ていた次郎すなわち小佐丸は、意志の大切さについて学びを得ていた。

 

《伏見邸を出立する前兼頼は次郎を呼び止める。

 

「良いか。相手の流れにのらされるな。意志は必ずドッシリと持つことを頭に入れておきなさい。それから、相手の芯いわゆる魂をしっかりと感じるのだ。」


こう助言を与えるといつもとは丸っ切り違う真剣な顔をして見送ると次郎はしかと肝に銘じた。》


「左手、東軍より伏見家庶子小佐丸。」


評議員の者が1人怪しげな表情をした。


この大会の規則は貴族であることがまず第一条件となっており、これが成っていなければ即逮捕となる。しかし、その評議員はすぐに表情を変え崖のぎりぎりを耐え抜いた。


「右手、西軍より元王家、根津信光(ねづのぶみつ)。」

 

前久はこの行司の言葉に驚きを隠せなかった。


それは、根津家は信光よりかなり前の代にて不祥事を引き起こし王家の座から陽高国の君王直々に降ろされていた為である。


前久にとっては、滅亡したと考えていても何ら不思議ではなかった。

 

ちなみに、次郎は全くそんなことなど知らず、これからの土俵上での演目に集中していた。


また行司の合図で始まった。小佐丸が反応する前に、信光が真っ先に太刀を抜くとすぐに小佐丸の首元へと迫った。


しかし、信光の刃先は突如として止まり小佐丸の打刀によりそれは弾かれた。


その後、信光はおかしな動きをした。まるで、小佐丸を指導するかのようだった。


信光の思い浮かべている打ち筋に誘導されるように次郎は打刀をそこに打ち込まされていた。


そして、始まってしばらくした後、信光は少しばかり口を開いた。


「お前は何者だ。お前の師に〝意魂(いこん)〟の教えを乞うてみよ。きっとお前は扱えるだろう。」

 

次郎にしか聞こえないであろう声で、次郎に助言をした。兼頼の教えを常に頭で記していた次郎はそれに動揺して、明らかなる戦力差の下次郎は敗れた。


きっと、信光が前久と戦ったとしても結果は変わらなかっただろう。その程度に力量は異なっていた。


 

その後の試合は動揺が続いていた次郎の頭には全く入ってこなかった。


前久は、2回戦を勝ち抜き3回戦まで上ったが、敗れた。


次郎は、恐怖の二文字が頭に浮かび、前久の満身創痍な身体をみて、すぐに伏見邸へと戻った。

 

手当てを受けている前久の姿に衝撃を受けながらも次郎は、精神的に参りながらも兼頼のいる部屋へと向かった。

 

「意魂か、。あれは、教えられて出来るものではない。その時の心身の状況や場面によって開花することが出来る。そして、基礎が大切だ。諦めてくれ。」

 

次郎はそれに不服そうな態度をみせたが、基礎をもなっていない自分は見るに堪えない程に情けないと感じ、道場に籠りひたすら竹刀を振り続けた。


昼に休息を取るように指示されるも、前久への心配で、白米など喉を通らずそのまま打ち込み続けた。


ただひたすらに。


そして、飲まず食わずの日々が長らく続いた。それは、およそ4日程だっただろうか。


その間、前久は回復を順調にしていき、休暇八日目。とうとう、次郎と対面した。


 


 



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