休暇と老人と #7
皆川家の執事となった次郎は、皆川宗良の娘である夢姫の世話役も任される。夢姫は、執事となってすぐの次郎と朝から町へと駆け出し、1日を謳歌した。そうして、ころっと夢姫のことを思ってしまうようになった次郎は、門番と夢姫が自分とは違う仲睦まじく話す姿をみて初々しい心を打ち砕かれていた。
「次郎殿!しっかりとなされよ。」
朝から次郎は調子が上がらず、照景らの助けもあって何とか今日という日を乗り越えていた。
「あー。かたじけない。」
照景から手渡された水を一口で飲み干すと、すぐに宗良より与えられた任務の続きをこなし始めた。
まさに疲れた表情をしている次郎であったが、それも無理はなかった。
あの日から毎晩休むことなく竹刀を振り、自らのために努力を続けていた。
次郎も14歳となり、元服や初陣もそろそろかと囁かれる中、今次郎が生きている時代にはもはや戦があまり好まれなくなっていた。
今の幕府による統治が始まるまでは、戦は絶え間なく各地で勃発していた。
しかし、ある大戦を境に今の幕府が出来る前の軍に対する反対勢力が消えた。
そのため、今でもその幕府に対する反抗意識というものは薄れていた。
「今日から何日間か休みを与えよう。」
次郎は宗良から休みを与えられ、10日ばかりは自由の身となった。
しかし、これは次郎にとって良いとは言えず、居る必要が無くなったとも捉えれてしまう。危機感を沸々と感じた次郎は思い立つと照景らを置いてすぐに屋敷を後にした。
「ど、どちらへお出掛けでございましょうか、」
あの門番が声を掛けて来たが、次郎にはもはや聞く耳が無く止まらなかった。すると、次郎は白萩村を抜けて北西へと進んでいった。
あれから約19時間が過ぎた頃か、辺りは既に暗闇でありながら、もはや僅かに明るくも感じてくる。次郎の目の前には小規模の村?らしきものが見えていた。
もう少し近づくと、木の根に老人が寝転んでいるのを見つけた。これは、好い機会だとして尋ねることにした。
「こんな夜分にかたじけない。ここは何という村
で御座いましょうか。」
老人は目を完全に丸くし驚いた顔でこちらを凝視していた。これを見た次郎は起こしてしまい気分を悪くさせたと思い、ここを謝り立ち去ろうとして、
「気分を悪くさせてしまったようで、申し訳ない。」
「い、いや!そ、そんな事はござらん!」
老人はいきなり話しかけられた事に動揺したとすぐに弁明すると、次郎はそれに納得し改めて挨拶を交わした。すると、老人は汚れた衣服をまとった次郎を家へと招きいれ、それを着替えさせた。
そして、落ち着いた頃。
「ここは、八田利という小さな集落でござる。
あまり人は訪れませぬ故、見物はお許しくだ
さい。」
老人の家を囲むようにして、集落の人々は次郎という客人を物珍しそうに見ていた。
「どうして、こちらへ。」
老人は、次郎へ質問をするとすぐに応えた。
「上官より休暇を頂き、武者修行へ参りました。特に、当てはないのですが、笑」
「それでは、都へ行ってみては如何でしょうか。」
次郎は都へと上ることを提案され、疑問に思い聞き返した。老人は、古くからの友人が居住していて、その旧友はかなりの武士だと説明した。
「私が都へ案内申し上げます。私の名は、クウゲンと申します。」
次郎も宜しく頼むと、1日休んでからの出立を計画し、一晩は老人、もと言いクウゲンの家に泊まることとなった。
ちなみに、この次郎らが住んでいる大地は、大きく見ると島国である。この国の名は、碧陽の国、陽高。
都は中央の海にあり、島の上に存在する。
そして、この国の上部に左右に分かれているこの地域を、西側を政部。東側を闘部と呼ぶ。
幕府は、この国の東側に本拠地を置いており、各地に幕府より派遣された少将以上の将官が将軍の代わりに統治している。
休暇1日目は、休息に費やし、2日目都へ上る。
休暇二日目明朝
「それでは、行きましょう。」
クウゲンはそう声を掛け、次郎と共に集落を出た。
そして、2人は馬に跨り、近くの港へと駆けた。
そうして、およそ2時間弱であろうか港らしきものが見えてきた。
「次郎殿。あれが、穴戸港でござる。」
かなりの舟が停まっておりその中には大中小様々な種類があり、同じものは一つとしてなかった。クウゲンに連れられ、次郎らは中の下あたりの大きさの舟にのり、都を目指す。
この海は、静かで落ち着いている中で、水に入ってみると弱肉強食の世の中が広がっている。自然をいかにも感じることができる。
集落を出てから何時間程であったか。周りは少しずつ更け始めていた。そして、陸地が見えてくるとすぐに明るく眩しい光が届く。
それから、しばらく。
舟はとうとう陸地へ到着し、次郎らは何時間ぶりかの大地に降り立った。




