初心 #6
伊庭家襲撃の味方を増やすため、次郎は突如として皆川家への出仕を命令され、驚きながらも皆川家を訪ねた。そこで、皆川家の執事として夢姫の世話を頼まれた次郎は、その日から執事としての務めを果たしていた。
「起きろー!!!次郎ー!!!!」
耳に驚く程大きな音が鳴り響き、屋敷全体が揺れるようであった。次郎はすぐに目が覚め、声がする方を見た。そこには、夢姫がいた。
「ゆ、夢姫!ど、どうされましたか。」
次郎はこの状況に焦りを感じながらも、ごくわずかに残っていた冷静さを上手く取り戻した時だった。
「私と共に町へ出よう!」
追い打ちをかけられたようだった。次郎は困惑しながらも、とりあえず側近らを起こそうと動くと、
「こいつらは今はいい!速くいくぞ!」
夢姫はそれを止めさせた。次郎は勝手な行動により、照景らや宗良からの叱責に怯えながらも、夢姫の指示に従い、町へと出かけた。
夢姫は目を輝かせながら町を眺めていた。この町の名は、白萩町。およそ20年前に出来た町だとされ、その分新しさを感じる程であった。
町に入ろうという所で、夢姫は町へ駆け始めた。
笑顔ではしゃぎながら。次郎はもろもろの突発的な行動にいまだ驚きつつも追いかけた。
そして、町へ入って茶屋が建ち並ぶ前に夢姫は足を止めた。
「次郎!ここで茶を嗜もう!」
このパッとした明るい笑顔に次郎もつられてしまう程のものだった。そうして、茶屋にて茶を呑み、団子を食べ、さて町を廻ろうという時だった。
「お二人は恋人同士なのかい?」
バレないように変装を僅かながらしていたため、茶屋のおじちゃんがそう聞いてきた。次郎は満更でもなく、夢姫も特に否定はしなかった。
その後は、色々な店を回った。その時のことは、疲れ果てていたため覚えていなかったが、夢姫が町へ来たかった理由を聞いたことだけは鮮明に覚えていた。
それは次郎に一時抱いていた初々しい青いものを一瞬で破壊したからだった。
「門番とのお出掛けの下見!」
こう話していた時も弾けた笑顔で、次郎は心に深い傷を負った。
時間は昼を過ぎ、夕刻に屋敷へと帰った。
「ねえねえ、君!」
夢姫は門番に約束を立てて、名を聞き、世間話をし始めた。
その時、次郎は自分は執事なのだからと落ち着かせながら、頭の中では悔しい思いで一杯になっていた。
我慢が出来なくなった頃に、次郎は先に屋敷へと入った。
「次郎様!どちらへお出掛けでしたか!」
心配した表情で照景と清時がいた。隆房はというと次郎を探しに町へ出ていた。
「まあちょっとな。心配をかけてすまない。」
あの話をされる前まで、部屋へ戻るのが不安であったが、今は早く一人になりたいというような勢いだった。
次郎は一度宗良に報告を入れた後、しっかりと叱責をうけ、部屋へ戻った。
その日の晩は、寝ようにも寝れずにいた。
4日程前に出会ったばかりの子に初めての恋をし、いきなり誘いをうけ町へと出掛けるとそこで、思いも寄らない失恋をするという。
次郎の中で勝手に作った物語だとしても、ここまでの感情ジェットコースターはあまり現代でも見聞きしないものだった。
翌朝。次郎は持ち直したように見えた。もちろん照景たちには昨日のことは話していないが、近くにいるものからすれば、お見通しであり同情の気持ちを抱いていた。
やはり、心の底では未だに持ち直しておらず、心は涙で覆われ、自信を完全に失っていた。




