消える灯火 #30
橋本では、依然として緊張感が漂い、微妙な空気の揺らぎさえも察知すると思わせる程の偵察兵の多さは両軍ともに同様であった。
遥か先の山々さえも軍事的に利用され始め、陣がはられる。
今日、辺りには霧が立ち込め、視界は曖昧である。
少しずつ忍び寄る魔の姿も、ここまで来ると明確に映し出される程になっていた。
そんな中、文頼はこの幕府との一戦の先鋒を任され陣をひいていた。
「文頼少将。幕府方の陣形が報告されました。」
緊張気味の照景も、段々と戦場の雰囲気に慣れ始め報告もしっかりと挙げれるほどになっていた。
「なんだこれは、。まるで我々に対して一切の武士道もないというのか。舐め腐っているな。」
その挙がった陣形というのは、先鋒など存在しないに等しい程の乱雑具合であり、牧野家に対して争う気はないかの如く仕上がっていた。
「今攻めかかれば間違いなく勝てますな。」
海野が放った意見は自明であった。
しかし、この意見は通る筈も無い。
なぜなら、未だ隠居の身とはいえども計りしれぬほど牧野家において絶大な存在を示す信正の姿がないからである。
そのため、先鋒の文頼軍は今か今かと待ち侘びている状況が続いていた。
その頃、牧野軍将帥である正一は信正と行動を共にしていた。
「それでは父上、今晩はここ本融寺にてお泊まりください。」
正一は老体の信正を気遣い、休み休みの進軍を徹底して行っていた。
その行動に嫌気のさす兵士も数多くいたが、その老体に秘められた数知らず傷に恐れ慄き、口出しなど全く出来なかった。
「かたじけないな。橋本はどうなんだ。」
信正の緩くなった口が僅かに動く。
「橋本では順調に仕度を進めております。父上のご到着と同時に開戦致します故、父上はお身体を癒しながら参られて下され。」
その後、消えかかる蝋燭はまた屋根の下へと入っていった。数名の警備と側近をつけると、正一らは近くの森にて野宿とした。
辺りはあっという間に闇へと堕ち、町の明かりなど一切届かず、自然の真理を肌身をもって感じれる。
そして、それから数刻が過ぎる。
灯る火が風に揺らぐ。
もう蝋が尽きそうな程に窶れ、火の頼もしさが微塵も感じられない。
荒れた炎の渦の中にある、そのままにいても自然に消えそうな蝋燭は風よりも遥かに強く邪道な力により、瞬く間に消え去る。
それと共に、散らばって配置していた薪には水をかけられ無常に意味を失っていく。




