四氏会議 #28
信正が正一に胸の内を伝えた次の日。
信正は九州、弟國、三遊の三家、そして全家臣を召集した。
「まず、今日この場に集まってくれたことに感謝致す。」
信正は張り詰めたこの場に口火を切った。
「ここに集まってもらったのは、私の意思が決まったからである。」
信正のあまり見せぬ意思をここに公開することに家臣らはただならぬ雰囲気を感じとっていた。
「私はこれより将帥を退き、隠帥として牧野家を支えていく。」
木々がざわざわと忙しく靡く。
「そして、幕府との兼ね合いが終息した暁には、武士としてこの立場から完全に身を引く覚悟である。」
信正の一門衆らには予想の範囲内であったが、家臣らには意外と捉えられていた。
この宣言は未来に影響をもたらすことになるが、それはかなり後の話。
そして、この場が御開きになった後に三家は残り信正、正一や一門衆らを交えて会談を行った。
「我等は既に幕府と一戦交える覚悟は出来ております。」
こう述べるのは三遊家当主の牧野純友である。
純友は信正の長弟であり、歳の差は一つ違いの為最も意見の合う者であった。
「そちらにその覚悟がお有りであるのならば、直ちにそれ相応の応援を派遣させて頂きます。」
応援、つまりは物資をも派遣可能だと話すのは弟國家当主の牧野尹佑である。
尹佑は信正の次弟であり、大うつけに加えて百獣の王とも揶揄される力をもつ。
「各地に点在する幕府軍の拠点には既に我等の遣いが潜入済みで御座います故、策等は筒抜けになっております。」
間者を配置したと話すのは三遊家当主の牧野義鎮である。
義鎮は信正の末弟にあたり、最も何を企むか分からぬ男である。
「我々牧野家も幕府軍との戦闘に備え着々と準備は進めております。」
正一は牧野家の当主としてここに自らの立場を置いた。
「まずはこの文頼に先陣を切らせ、その後に本隊を送り込む予定で御座る。」
予定であることを話す正一はここでは踊る獲物。
「ということは、凡その激戦地は予測しているのか。」
尹佑がそこに食い付く。
「はい。我々は楠葉だとしております。」
そして、正一は語尾を強めて話す。
「いや、それより前の橋本城で幕府軍の侵攻をとめることが最低条件で御座る。」
正一は更に期待を上げていった。
「畏まった。我等も手を貸させて頂きまする。」
三家の代表ともいえる純友が正一と盟約を交わした。
「宜しくお願い致します。」
正一自身、未だ幕府軍の本意は偵察程度であると考えていて、これはどこの者もそう捉えていた。
しかし、稀にその危機を察し、これに備えるものもいた。
その頃。
牧野家征伐に立ち上がった四つの家が幕府軍の拠点である錦城に集合していた。
「俺らにだってな、家族がいて暮らしがあるんだ。」
荒々しくもそこには愛の込もる文言で問う、ある家の当主の姿。
「その通りだ。この戦いが終わったらどの程度の褒章が貰えるのか、ここに記してみよ。」
世にも珍しい農民出身であり、果てしなく泥臭くこの陽高を生き抜いてきた者の姿。
「まあ諸君、落ち着き給え。本心を言えば幕府側も予測がついとらんのだろう。」
彼らの若さ故の抗いに落ち着きを与える者の姿。
「そのぐらいだろうな。こんな忙しく慌てる幕府をみるのは久し振りだ。」
先に話した者らの圧倒的に上の年齢をもつものの姿。
「でも、相手が軍の動きを察知していない間に城攻めが始まるのだろ?」
先のある家の当主は、荒々しい当主にもやはり当主としての気持ちはあり、冷静にこの場面を分析した。
「それが遂行出来れば、我等の勝利も固いだろう。」
「とりあえず、滅ぼしてからまたここに集おうじゃないか。」
彼等は、様々な生い立ちをもつものの安定感のある話し合いでそこをまとめながら、確実に牧野家を堕とす為に策を練り続けた。
その後、宇都宮和秀率いる軍勢は一つの城に飽き足らず周辺の城や地域を自らの手中に入れる。
そして、牧野家を揺るがす報せが矢のように突き刺さる。
ー 橋本城、竹田城の二城、落城。
隣接する地帯である楠葉、堕ちる。 ー




