尽くす #22
やはり歴史とは残酷なもので、真実なものがそのままそこへ刻まれることは、殆どないであろう。
しかし結局は、そんなもの後世に残された人々には何もわからない。
〝今〟を生きているのだから。
月の麓の人より
〜
「しかし、どうしたものか。」
困惑する文頼らの前には目前に迫る百鬼夜行のようなハウゼムの民らの姿があった。
平和を望むハウゼムの民らがここに幕府の下こちらへ進行しているのかも分からぬまま。
「果たして、これが洗脳なのであろうか。」
「いや。おそらくは、この中立地ハウゼムの性格なのだろう。」
「聞いたことがある。中立地はこの陽高に数カ所あるとされるが、それぞれ異なる思想を持つのだとか。」
「もしそれが真なのであるならば、中立地ハウゼムの性格は、かなりの残虐性を持ち合わせているな、。」
そう業雅、重洋、文頼らが話していると、痺れを切らした則慶が槍を取る。
「もう、談笑は終わりだ。お前らが、このハウゼムに着いた時から既に運命は決まっていたのだから、観念しろ。」
そつ則慶が交渉を促すように放つと、文頼らはそれに威嚇するが如く各々が得意とする凶器を手に抗う姿勢を示した。
「そこの小僧らは知らないとは思うが、〝赤〟一族に属する者もここに来ている。」
「今頃、山内一宣は地に頭を擦り付けて降伏を願いつけているだろうね、笑」
〜
その頃。
ハウゼムの巨大な城の天守にて。
「そうか。長克らが鼠を見つけたか。少し遅かったがね、まあ良しとしよう。」
「それはそうと。山内一宣が早速、名越久時を斬り伏せたそうではないか。」
「はあ。、〝赤〟の一族も果てにまで堕ちたな。」
「おい。豪久。山内一宣は後に始末する。お前は直ちに鼠を処分しにいけ!!」
「ここで殺らなければ、また面倒なことになる。」
雑音で包まれる持ち主が不明の複数人の声が、謎の金属製の物から響き渡る。
「は、。畏まりました。直ちに処分致します。それでは。失礼致します。」
ふう、。
豪久の心の声が漏れる。
平和の欠片もないハウゼムの民の主もそれはそれは暴に支配された人間であり、目的すら未だ分からぬ謎の襲撃の指揮を直々に執ることとなる。
〜
明らかに戦闘能力がかけ離れている。
それを彼らは察しつつも、この状況を打開するべく言葉を交わしながら策を練る。
「〝赤〟の一族は、この国を完全統治した初めての大名の子孫のことをさすが、それは数十年前に滅亡したはず。」
「まあな。何れ分かることだ。今知らなくともそれでよし。」
まもなくここに百鬼夜行が到着する。
「今度こそ、話はこれまでといこうか。」
則慶は槍を構える。
業雅と重洋が文頼らを護るように前へと出る。
「文頼!!!お前らは長野の野郎を討ちにいけ!!」
「我らは則慶を引き受ける!」
「その他は、長克を頼むぞ!!」
指示を出したのは紛れもない武に長けた男の中の漢。
名は、畠山重洋。
それを聞くとそれぞれが行動に移る。
春房、盛時が瞬時に長克が文頼を殺害しに動くと察知し、それを止めるため襲いかかる。
それを援護するように宣尚、信嗣が文頼らを護衛するために動く。
業雅、重洋は則慶の表情を見ながら、場を読み取り、格上との戦いに心を整える。
文頼、照景、隆房、清時は指示通りに長野豪久討伐へと向かうべく、中立地ハウゼムの巨大な城へと進む。
「あの重洋が。まさか、あの心の底に未だ眠れる才覚をみるとは。信じ難いな。」
「ほう。業雅のその言い分はまるで分かってたかのようだが、まあいい。さあ、言い出しっぺはしっかりしないとね。」
そして、このハウゼムの悲劇と呼ばれる中立地における最恐の事件はここから始まる。
重洋の刃と、則慶の槍が衝撃波を周りへと響かせ火蓋が切られる。
〜
「始まったようだね。」
山内一宣は、この縁側で戦場とは一つ距離を置くようにして穏やかに腰を下ろしていた。
「はあ、さて。私は私の仕事をしようかね。」
一宣は手を出し、なにやら合図を出しているようなさぐりをすると、影から人が飛び出た。
「これを、御父上へ。頼んだよ。」
一宣はその者に手紙らしきものを渡すと、その者はサッと闇へと消えていった。
そして、独り言のようにボソッと呟いた。
「〝赤〟がここまで堕ちるわけないだろ…、。」




