中立地ハウゼム #19
伊庭家を手中に治め、落ち着きを取り戻しつつある頃。
一宣と文頼、そして照景、隆房、清時らが広間へと呼ばれた。
「呼んだのは他でもない。中立地へと行ってもらいたい」
開口一番に放ったのは、一宣に覚悟を決めさせるものであった。
中立地とは、陽高の国に僅かながら存在する幕府側にも、市民側にも寄らず、戦いから一線を引いて平和な環境を作り出している地域のことである。
そこへ行くということは、中立地をも巻き込んだ戦争を考えているという暗示なのか。そうも捉えることができる。
一宣、文頼らはそれを引き受け、その日の太陽が真上から見守る頃に屋敷を出た。
(山内一宣。この男は、憎たらしい父の素晴らしい弟方のうちの1人で、各地に名を馳せるほどの卓越した技術と知恵をもち、兼ねてより牧野家の重職に就いている。現在は大将という高位にあられる。)
そして、中立地へと向かっている途中に一宣はある話をし始めた。
「もう、何百年も前になるだろうか。
この辺の一帯は、戦火の最中であった。
その戦いは各地を巻き込み、幕府や大名を超え、官職の 者から王にまで戦場へ駆り立てた。
それ以降、王ら含む都住まいの貴族らも大名らと同じく剣技を学び、多くの型を扱うようになった。
そこから生まれたのが流派だ。この陽高には、大きく四つの流派があるそうだ。
1つは、一般的とされる華流、そして主に防衛時に扱う衛流、3つ目は全てを応用したものであり才能のあるもののみが扱うことを神より許されると言われる威流。そして、4つ目は、未だ未到達とされるもので神と同じ流派とされている。
しかし、必ずどこかの時代にそれを確認した人物がいるから後世に残っている。
文頼。お前はどこまでいきたい。」
(私にこれは愚問である。私に力など以ての外、私は何の才もない。私の答えはただ一つ。)
「私は、後世に未来を繋げる役目を負いたい。」
文頼は、一宣の放った4択のように聞こえる言葉の中から希望の5択目を見いだし、それを答えとした。
一宣はそれに何故か頷き、文頼の肩へ皮が厚く何処となく優しさが滲みでている手を置いた。
しばらくして、中立地ハウゼムが見えてきた。
ここは、中立地の中でも最大の規模の城を有し、その姿はまるで戦争の象徴ともいえるようなものであった。
そして、この中立地ハウゼムは貿易も盛んであり、海を渡った先にある国々から与えられた名前をそのまま公式な地名とした。
文頼らは荷車を借りた屋敷へと預け、中立地の主に挨拶へと向かった。
武士としての目線でみると、中立地は紛れもない戦場であった。
平和という皮を被り、戦場から一線を引いているように見せかけ、自分らはその中に神としての立ち位置で君臨したいという思惑が見え見えであった。
「よく来たな。お前らの噂はよく耳にしているよ。」
そう話すのは中立地ハウゼムの主。名を長野豪久。過去に陽高の国にいた暴君、豪富士の孫である。
やはり血には抗えないのか、豪久から獣のような気配が放たれ、中立地の核心部とは思えない程の殺気を感じた。
「それはそれは。お騒がせ致しました。我々は使者として立ち寄ったまで。ここで暴れるなど事がない限りはありませぬ。」
一宣は威嚇をするように豪久に言い放った。
一宣も武士であるため、この現状が罠だということは気づいていた。
漂う殺気。平和?など馬鹿馬鹿しいほどに血の匂いが漂う。
しかし、ここで刀を抜いたとしても周りは敵だらけである。
ここは中立地。ここには特別な法律がある。
それは、中立地内で暴力行為へと及んだ場合、幕府から何まで全ての大名と敵対し、包囲され滅ぼされるというものである。
そのため、一宣や文頼らは何も出来ずに借りた屋敷へと戻り一晩を過ごした。
晩はこの地域の特性なのか、カチャカチャと物音が鳴り響いた。
この夜。
何者かが、豪久と密談を交わす。
企みをしながら。




