八幡神の身支度 #10
次郎と前久は兼頼の思いつきにより高筑会へ出場することとなり、それは実力差を肌で実感させた。前久は満身創痍のため治療を行っている中、次郎は1人打ち込みに励んでいた。そして、動けるようになった前久が次郎の前へと現れた。
次郎は途端に駆け寄り前久を抱きしめた。
兄弟のような関係をたった4日でつくった彼らの抱擁は、前久の側近や見回り衆らを感動の渦に巻き込む程であった。
あの恐怖をも感じさせた高筑会は、2人にとって良い経験となった。恐怖として伝わった力量の差、人間性の違い、そして未だ謎が残る〝意魂〟。
これらは、必ず2人を強くさせるものだった。
「次郎。お前は、もう1人で生きていける程にこの高筑会で成長したよ。」
前久は次郎の4日間での特訓で一回り大きくなった成長真っ只中の身体を掴み言った。
次郎も、休暇の最終日を間近に感じ、冒険否特訓の終演が近づいていた。
その後、広間へと呼び出された次郎は既に思いを決めていた。
やはり、そこにはクウゲンの姿があった。
「如何でしたか。都は。」
次郎は、良い経験だった。
というと、クウゲンにこやかな表情でそれは良かったと言わんばかりのくすっと笑いをした。
そして、クウゲンと共にまた舟へと乗るため港へと行った。
そこには、すでに兼頼や前久らなど伏見邸にてお世話になった人々が見送りに出ていた。
「6日程ではございましたが、お世話になり申した。感謝申し上げます。」
次郎は丁寧に別れの挨拶をし、クウゲンと共に舟へと乗った。
「次郎!!次、会うときはお互い強くなってからだ!!!また、、、来い!!!!」
前久は涙を流す程に次郎を弟のように思っていた。まるで実家をでる実の息子に対して言うように熱い心であった。
出港した次郎はそれに頷くと、手を振り見送りに感謝をした。
そして、次郎らの舟が見えなくなった頃。
「やはり、あの御方は陽高の宝だな。笑」
兼頼がこう言うと、前久も続いた。
「私らも彼を支えれるように尽力せねば。笑」
「ふう。故郷に着いたような気持ちだよ。」
次郎とクウゲンは八田利へと着き、一休みした後にクウゲンと別れを済ませ次郎はそのまま皆川家へと向かっていった。
その間、およそ2日程かかった。
次郎は、門番の姿が見えると拳を強く握ったが緩ませ、気持ちを落ち着かせた。
「牧野次郎。只今、帰った。」
門番にそう話すと門が開き、そこには照景らがいた。
懐かしい顔であった。何故かポロポロと零れるものに照景らもつられそうになっていた。
そして、都の土産話をしながら自分の部屋へと帰っていった。部屋で少し落ち着いた後に、次郎は不在時の報せを耳にした。
〈牧野家、将位制度導入を検討。〉
〈伊庭家、所領一部没収。中将へ昇級。〉
〈幕府、東部での一揆を将軍自ら鎮圧。〉
次郎は将位制度についてこの中で最も関心をいだいた。
将位制度とは、大将、中将などのことであり、普通は戦時中のみ導入する家がほとんどであるが、幕府や大名などは常にこれを導入している。
報せを入れ終えすぐ、広間へと呼ばれた。
広間には、たった10日ぶりだと云うのに何故かどことなく懐かしく、安心できるような顔が並んでいた。
一連の出来事があった夢姫も、主人である宗良も。
「良い休暇だったか。」
宗良が休暇中の苦難を知らないのも当たり前だった。次郎はその気持ちを自らに押し込めコクリと頷いてみせた。
それに夢姫はにこやかな顔で次郎を心のなかでじんわりと涙の渦に陥れた。
宗良の親切心によって次郎は本日中まで休みとなり、話に一段落がついた頃に部屋へと戻ると倒れるように眠りについた。
廻沢。牧野家の屋敷。
この場所は、月日を過ぎるごとに慌ただしくなっていっていた。
玄治や頼久、裕頼らは既に帰着済みであった。
「あー!もう!!外交が追いつかなーい!」
苛立ちを覚える様子で声を屋敷中に響かせているのは一応外交担当に命じられた中野茂栄であった。
兄弟の上3人の外交が無事に終了したからといえども、たかが3つの家止まりであり、伊庭家との戦になればより強大な戦力が必要となる。
現状、牧野家方についているのは、次郎らの叔父が養子へと成った山内家、玄治が向かった佐野家、そして頼久と裕頼が共に交渉しにいった山井家である。
皆川家は未だ不透明であり、近隣諸国の上杉家や佐竹、秋花、千葉等の大名家らは交渉に応じる気配を見せていなかった。
伊庭軍は挙兵こそしていないがいつ起こってもおかしくない程になっていた。伊庭軍は推定でおよそ5万程の兵士を募っているようで、牧野軍は現状掻き集めても2万程度であった。
唯一の救いがここらの家で戦力となる大名家が残っていることであり、先に挙げた4つの家をどう味方につけるか、そしてどう強くさせるかが鍵になる。
そして、もう一つ気になる動きをみせる場所があった。
それは、都の伏見邸。
「また、よく来たな笑!」
兼頼が迎え入れていたのは、もう見慣れた顔となった謎の老人クウゲンであった。
「やはり、戻ってきたいのか?〝元〟王族よ。」
そう投げかける兼頼であったが、クウゲンはそれに応えずにいた。




