幼馴染の陽葵は、ポーカーフェイスを崩さない
「俺は、そこらへんにいくらでもいる天才科学者のひとり、かもしれない」
https://ncode.syosetu.com/n8439hy/
……の、続きになります。
私は陽葵。
小学生だった2年前、幼馴染に陰湿な嫌がらせをした。
今日、屋根裏部屋で和解し、懐かしい部屋へ招かれた。
机の脇にブラ下げていた、一年ちょっと使っただけの新品同様のランドセルに、「勉強しとくよ」と苦笑しながら星座早見盤を入れる。
こちら側へ椅子を転がして、自分はベッドに腰かけた。
「あれは体育祭の前日だった。独りポツンと座って不参加。問題児というレッテルを貼らせたんだ」
心が痛んだ。
個人戦の多い運動会とは別に、団体競技や演技発表が中心の秋の行事にしている学校だった。保健室へ行かずに座っている。事情を知らない子からも好奇の視線を向けられて、悪目立ちしていた。
それでも。
空は勘が良い。遠からず、気まずい関係になっていた。
そうなる前に、絶交したほうがマシだと思った。
中学に上がって皆と同じ制服を着ても、目立っていた。
私は、空とは……周りの女子と比べても見劣りしてた。
「貼らせた? ……どうやって」
空はニヤリと笑った。
「シュレディンガーの猫、知ってるか?」
「なんだかカワイイ名前だなぁ、としか」
缶コーヒーを飲み干して「これ、もうダメんなった」と苦笑し空き缶を振った。人類を滅亡させる装置だと彼は主張していたが、中身は微糖の珈琲だった。
「どっちにしろ猫は死ぬ、そんなパラドクス」
「量子力学、それが?」
「簡単な思考実験だよ。よくある悪戯、子供に現金持たせる学校側に問題がある。真犯人を捜せばシャレじゃ済まないって脅して、被疑者役を引き受けて迷宮入りにしたんだ」
前提の矛盾を、突いた――
よくわかんない屁理屈で煙に巻く。
空は、ある種の天才だ。
「おふだと一緒。俺、怖かったんだ。突然、嫌われて、泥棒に仕立て上げられて。どこか良いタイミングで真意を確かめたいと、思ってはいた」
空は勘が良い。
自分が悪者になって、私を守ってくれた。
ずっと後悔してた、涙が零れそうになる。
「それが、今日だった」
「あぁ、いや? カワイイ子だな~って声かけたら、陽葵だっただけ」
迷わず一発、ブン殴った。
……危ないところだった。
これからはポーカーフェイスを守っていこう。
こんなヤツのために流す体液は、一滴も無い。
モッタイナイ。
空は悪びれもせず「お~痛」と立ち上がった。
えんぴつを手に取って、カレンダーをめくる。
「ねぇ! ……なんか忘れてない?」
「そうか? これにて一件落着だろ」
夏祭りの日付けに『ひまわり』と書いて、頷いた。
「ようやくチェックメイトだ」