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第5-2話 勇者様と俺、中盤イベントに挑む(前編)


「もぐもぐ……”絶海の泪”とかカッコいい名前で呼ばれているアレ、ウチの大叔父のやらかしなんですよね」


「……は?」


 晩餐会を乗り切るために具体的なダンジョンの名前を出してしまったので、次の冒険はそこに行かざるをえない。


 人間界の南側ほとんどを占める大海。

 そのど真ん中に位置する絶海の孤島に口を開けている秘境ダンジョン。


 到達難易度もさることながら、発見から500年を経ても全貌が見えない圧倒的な規模。

 神々の作りたもうた奇跡のダンジョンと呼ばれているのが”絶海の泪”である。


 神話の時代に作られた伝説の武具が見つかることもあり、”中盤の強化イベント”には最適の場所と言えるのだ。


 魔王であるフェルなら、何か情報を持っているのではと考え、レイド王国外務大臣から貰ったスペシャルスイーツ(ティラミス)を手土産にフェルの私室を訪ねた俺たち。


 ココアパウダーをすべすべのほっぺに付けながらティラミスを頬張るフェルから放たれた第一声がそれである。


「ど、どういうことだ? 神話の時代からある伝説級のダンジョンではないのか?」


 思わずソファーから腰を浮かしかける俺。


「こくん……身内の恥をさらすようで大変お恥ずかしいのですが」

「余の大叔父は魔界を代表する実業家でした……」


 ティラミスを魔界紅茶で流し込んだフェルは、遠い目で宙を見上げる。


「約600年前、後の世で”ウキウキバブル”と呼ばれる空前の好景気が到来し……」

「懐に余裕のできた魔界の住人たちの間で異世界旅行が大ブームとなったのです」


 ……凄い迷惑だなそれ。

 平和な世界にモンスターの団体旅行が押し寄せる光景を想像する。


「もちろん大叔父が所有する企業グループがそのブームを見逃すはずはありません」

「人間界観察ツアーの拠点として、件の孤島に地下200層からなる巨大リゾートが建設されました」


 モンスターの中には日光が苦手な種族も多く、魔界には巨大地下施設が多いと聞く……まて、リゾート施設だと?

 どんどん変な方向に突っ走るフェルの昔話。


「最初の数十年は旅行者でにぎわい、大叔父の企業も大いに潤ったのですが……」


「えぇ……」


 流石にルクアも困惑顔だ。


 世界中の史書に記されている”大災厄”。

 600年前に起きたという、海の向こうから押し寄せるモンスターの津波。

 真相は魔界の団体旅行客だったようだ。


 ゴーストの正体見たり枯れ尾花。

 どこかの偉い賢者の格言を思い出してしまう。


「そのタイミングで運悪く3代前の魔王が降臨……魔王軍征服戦略(ドクトリン)の変更により人間界への観光旅行は禁止され、巨大なバブルの遺産が残ったというわけですね」


 そこまで話すと、追加のティラミスに手を伸ばすフェル。


「むむっ!!」


 バチ、バチイッ!


 最後の1つを狙う勇者と魔王の激しい駆け引きが繰り広げられる中、昔話もそろそろ終わりに差し掛かったようだ。


「”絶海の泪”の伝承は、大叔父が魔界固定資産税対策として、生きているダンジョン扱いにするためにでっち上げた方便にすぎません」

「かくいう余も大叔父からこれを引き継いじゃったので、毎年の税金に苦労してるんですけどね」


「な、なるほど……」


 予想以上に世知辛い事実だな……。


「ダンジョン探索で時間を稼ぐのはいい案ですね」

「大叔父がコレクションしてた武具も入手できると思いますので……」


「ランさん、ルクアさん。 魔王フェルーゼの御名に於いて立ち入りを認めます」


 ぽんっ!


「いってらにゃ~!」


 フェルの魔法印が押されたダンジョン(というかリゾートホテル)の見取り図付きのパンフレットまで貰った俺たちは、ポンニャに見送られ”絶海の泪”を目指すのだった。

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