第3-5話 勇者たち、新ダンジョンの凶悪ギミックに苦戦する
「馬鹿なっ!? 前回ここはT字路だったはずだ!
まさかダンジョンの構造が変化しているのか!?」
ここはディルバ帝国に出現した新ダンジョン。
ライン王国から帰国するなり意気揚々とダンジョンに突入した勇者候補のパーティは、思わぬ大苦戦を強いられていた。
新しいダンジョンを攻略する場合は、まず何度か潜ってみて各階層の構造を把握、本攻略時には回復アイテムをたくさん準備して一気に最奥まで潜るのがセオリーである。
資金的に余裕のある勇者候補などは、複数の冒険者を雇い先行させることで体力や魔力を温存し、一度の挑戦で攻略する”極地法”と呼ばれる力業を行う者すらいるほどだ。
「しかも、各階層に1パーティしか侵入できないだと!?」
毎回ダンジョンの構造が変わるのなら先行調査の意味はないし、侵入可能なパーティ数に制限があるのなら”極地法”も使えない。
「くそっ! せめて第5階層までは到達し、アイテム回収をしないと……!」
予想外の展開に焦る勇者候補。
帝国貴族出身の彼は資金に物を言わせ、新ダンジョンを一度で攻略するつもりでいた。
彼の背後にはたくさんの出資者がいるのだ。
勇者候補同士の連携などクソくらえ、今次魔王討伐も先導するのは我がディルバ帝国貴族だ。
大賢者ウルテイマの手前、調子を合わせていたがド田舎のライン王国出身の勇者候補などに魔王討伐の栄誉を渡してなるものか!
「お、お坊ちゃん! これ以上は危険です! 撤退を!!」
何とか第5階層まで到達したものの、目の前に広がるダンジョンは先遣隊に報告させた構造と全く違っている。
「く、くそっ……オレサマは失敗するわけにはいかないんだああああっ!!」
がこん!
焦るあまり、注意力が散漫になっていた彼は不用意にトラップ床を踏み抜いてしまう。
「わ、わああああああっ!? 落石トラップだっ!」
ドドドドドドッ!
「ち、ちくしょおおおおおっ!!」
ディルバ帝国勇者候補筆頭であった彼のパーティは各種トラップに散々追い回され……命からがら地上に撤退するのだった。
*** ***
「な、俺の言った通りだったろ?」
「ふわああぁぁ……毎回構造が変わる通路に、1パーティだけの侵入制限とか……このダンジョン、めちゃくちゃヤバいねっ!」
わうん!!
各国の冒険者ギルドから集められた”新ダンジョン攻略レポート”を読んだルクアが驚きの声を上げている。
各国の勇者候補が新ダンジョン攻略に取り掛かって2か月ほど……最も進んだパーティでも第9階層の壁を突破できずにいた。
俺が考案し、魔王フェルーゼが実装したギミックは十分な効果を上げているようだ。
「それにしてもラン……第9階層まで到達したパーティが、ことごとくリタイアしてるのはなんでなの?」
「勇者候補のうち一番レベルが高かった”豪剣のグロース”なんか……」
ルクアが言っているのは世界で最有力だった勇者候補だ。
彼が提出したレポートにはただ一言。
『恐ろしいトラップに己の未熟を痛感す。 しばらく修行の旅に出る』
と書かれているのみだった。
「ま、まあ……彼らにも考えがあるんじゃないか?」
実はこの言葉の背後には、男として海よりも深い理由がある。
1週間ほど前、第9階層に挑んだパーティの高いリタイア率に疑問を持った俺は、フェル達に聞いてみたのだ。
『ふふっ! 第9階層にはポンニャちゃん渾身の”ご褒美イベント”を設置したのです!』
『ポンニャちゃんの影に誘惑されにゃんにゃん (意味深)しちゃった子は、45レベルダウンの罠にかかり……ふふふのふ』
『うにゃ~~っ! 影とはいえ、清純なポンニャのイメージがっ!』
清純派を騙るグランサキュバスなど片腹痛いのだが……恐ろしい、恐ろしいトラップである。
今回の魔王討伐では、耐性を考えて男のみのパーティを組む勇者候補が殆どだ。
むさくるしい冒険で溜まるストレス。
数々のギミックを突破し、最終階層がすぐそこに見えたタイミングで発動する”ご褒美イベント”……。
しかも、シャドーポンニャの容姿は勇者候補の性癖に合わせて自動変化するらしい。
自分の好みドストライクな女魔族とのご褒美イベント……回避できる男がいるだろうか、いや……いないっ!!
「ハニートラップに引っかかり、レベルダウンしました」と正直に報告するのは恥ずかしすぎるためこの情報は共有されず……罠にかかるパーティが続出しているのである。
可愛くてもやはり魔王と四天王である。
わふわふん!
これだから男は……という視線を送ってくるポチコ。
「ねえねえ、恐ろしいトラップって何なの~?」
純粋な瞳で俺を見上げてくるルクア。
すまんルクア……お前の純粋さは世界の宝だから、どうかそのままでいてくれ。
だがこれで……年単位の時間を稼げるのでは。
俺の甘い期待は、僅か1か月後に覆されることになる。




