びーほーるど
愛し合った日々は過ぎて
甘い言葉だけが残った
どこにいても
たとえ死んでも
僕はずっと君を見ているよ
その言葉をくれたひとは今
でっかい目玉だけになって天井からあたしを見ている
元々はコタツ板の上にいた
真正面からずっと見られてるのがうざいので
隠れてくれと頼んだら
天井裏に隠れてくれて
小さい穴からでっかい目玉覗かせて
ずっとあたしを見ていた
一方的に見られてるのがいやだと言ったら
穴からにゅうっと這い出して来て
重たそうなシャンデリアみたいにぶら下がった
それが今のかたち
年中出してるコタツに座り
見上げると頭上1メートルのところにでっかい目玉がある
ずっとあたしを見てる
あたしがキッチンに移動するとついて来る
足元にころんと転がって下からじっと見上げて来る
こらこら踏んじゃうよ危ないよ
誤って蹴っちゃったら涙出るでしょと言っても
ふくらはぎにくっつくほどの距離でじっとあたしを見てる
トイレやお風呂の時は扉の前でじっと待ってる
言葉は喋らない
口がないから
あたしが仕事に出掛ける時は
車の後ろの席からじっと見てる
ルームミラーにずっと映ってる
元はにんげんだったものが
今は巨大なただの目玉
見ることに特化した目玉
かくれんぼが得意
仕事場に着くと
いつも見事なかくれっぷり
カーテンの陰からあたしをじっと見てる
天井の角からずっと他の男の人といちゃつくあたしを見てる
階段の上を浮かびながらぐるぐるついて来る
他の誰にも見つからない
他の誰をも決して見ない
あたしより可愛い子がいても
ずっとあたしだけを見てる
にんげんだった頃はサバの味噌煮が好きだった
さあサバ缶買って帰ろうか
抱っこしようとすると逃げる
触れられるときっと痛いのだ
車の後ろの席からじっと見てる
車を降りるとふわふわ玄関までついて来る
部屋に入ると上からぶら下がってあたしを見てる
彼を失って死にかけていたあたしは
今は笑顔でこれを書いている