番外編生活①
こっちに来てから1週間くらい経った。
前は「赤ちゃんに戻りたーい」とか思っていたけれど、憧れてた赤ちゃん生活は思っていたよりも大変だった。
まず体は思うように動かない。そして、何か伝えたくても伝えられない…。発音が上手くできないのだ。いや、その前に言葉がわからないから、発音が上手くできるようになっても意味ないな。まずは言葉を覚えよう。
さらに時間が経過した。
寝ていることが多いので、どれくらい経ったかはわからないが、色々と認識し始めた。
まずは使用人。茶髪のショートヘアで目が紺色の女性と黒髪のポニーテールで背の高い女性がそばにいることが多い。私の面倒は母が見ることが多いので、そのサポートをしているって感じだ。私はてっきり乳母さんが私の世話をするもんだと思っていたが、ここでは母親がきちんと子育てをするようだ。
なぜ、母親がわかるかって?それは、服装と態度からだ。高級そうな服を着ているし、周りの人たちから敬われている。
そして、兄らしき人も覚えた。昼間によく来ては頭を撫でてくれる。この優しさはいつまで続くかね~。
こんな感じで少しずつ私の周りにいる人たちを覚えていっている。
だけど、父親を見たことがない。
私が寝ている時に会いに来ているのか、興味がなくて来ないのか…。さっそく家庭崩壊かぁ?
とか思っていたら、父親らしき人が来た。
『はぁあぁ!!やっと起きている時に会えたよ!可愛いなぁ』
何言ってるかわからないけど、にやけ顔で私を抱き上げた。
『普段は寝ている時にしか会えなかったものね。でも、この子ちょっと怖がっているわ』
『あぁ、ごめんよぉ』
両親が何を話しているかはわからないけれど、父は少し寂しそうに私をベッドへ戻した。
おぅ…。こわった…。あと、たぶんだが今のは「ごめん」かな。
さらに時が過ぎた。
私は歩けるようになったので、中庭にお散歩に来ている。歩けるって素晴らしい!!そして、言葉もだいぶ覚えた。
「かーしゃま、こりぇ、なに?」
うぐぅ、上手く発音できん。
「これは、リーカスよ。綺麗でしょ」
リーカス。バラに似た花で赤、白、黒、紫、ピンクの五色がある。バラのように棘はない。
このリーカスのように前の世界と似た花もあれば、見たこともない花も多い。
見たことのない花を見るのは結構楽しくで、歩けるようになってからはよく母と散歩に来ている。
それにしても我が家の庭は広いわね。一人で歩いたら確実に迷子になる。
「さて、そろそろ戻りましょうか」
「はぁい」
もうお散歩終わりか。家に戻ったらなにしようかな。
家に戻るとピアノの音が聞こえた。
え、ピアノ…あるの?
「かーしゃま、こにょおと、なに?」
「ピアノの音よ。今日からルイのピアノのレッスンが始まったのよ」
ほう、兄は今ピアノのレッスン中なのか。
「ききたい」
「んー、そうねぇ。邪魔しないって約束できるならいいわよ」
「できりゅ!」
「ふふ、わかったわ」
そして、私はピアノが置いてある部屋へと連れていってもらった。
「レッスン中にごめんなさい。この子が見学したいそうなの。いいかしら」
「あら、そうなんですわね。もちろん大丈夫ですわ。では、お嬢さま、こちらへどうぞ」
「あ、は、はい」
初対面の人と話すの久しぶり過ぎてなんか緊張するわね。
「え、ちょっと。リィに見られるの恥ずかしいですよ!」
「いいじゃない。いつもいつも『リィに会いたい』って言っていたし、今日は曲を演奏するわけではないでしょ?」
「う~ん、そうなんですけど…。まぁ、いいか」
兄よ、なんかごめん。
そして、椅子に腰かけ、兄のレッスンを見学した。
まずは、音階覚えるところからか。
「これがC、これがD…」
ん?これはまさか、ドイツ音名?!この世界の音名はドイツ音名と同じなのか。前の世界で吹奏楽やっててよかった。覚えること一つ減ったわ。
見るだけってのは少しつまらなかったが、久々に楽器の音を聴けたのはよかった。
私も早く弾きたいなぁ。今度お母様に頼んでみようかな。