番外編の始まり
私は小さい頃から兄と比べられて育った。親からの愛情は十分受けていたが、優秀な兄を持つとその妹はなかなかつらい。
兄は天才というわけではないが、努力という才能を持っていた。
私は努力ができない人間で、得意なこともない。兄よりもできることと言えば、女の子だからという理由で習わされていたピアノぐらいだろうか。だけどそのピアノも人並み程度。
昔はなんにでもなれると思っていたけど、成長するにつれて、兄との差を感じなにもかも諦めていた。小さい頃はアイドルとかピアニストとか医者になりたいと言っていたが、そんなのなれるわけないと早々に気づいた。
今は、少しでも兄に並びたくて大学院に進学した。まぁ、こんなのただの兄の真似事…。なにしてんだろ。
いつの間にか私が本当にしたいことがわからなくなっていた。
「もう人生やめたいな」
「じゃあ、別の世界に行ってみない?」
「…へ?」
誰もいないはずの研究室に少女がいた。真っ黒な髪に真っ黒な服を着た150 cmくらいの少女。なんか怪しい。
「君、誰?ここは関係者以外入れないんだけど」
そう、ここはセキュリティがしっかりしていて、関係者以外は入れないのだ。なんせ病原性微生物扱ってるんでね。
「んー。なんていうのかな。神様的な感じ?」
「神様ぁ?真っ黒で悪魔に見えるんですけど」
「あはははは。そんな風に言う人もいるね」
悪魔なのか…?
「まぁ、そんなことより、どう?別の世界で人生やり直してみない?」
「…悪いけど、まだこっちでの寿命が残っているのに別の世界に行きたいとは思わない。それに、私は家族が大切だ。心配させるようなことはしたくない」
「えー。人生やめたいとか言ってたのにぃ」
「確かにそう言ったよ。つまらないし、生きている意味もわからない。でも、この世界には私の大切な人たちがいるから、突然いなくなって悲しませたくない」
「んー、じゃあさ、こっちの時間止めといてあげるから、止まっている間に別の世界で生きてみない?」
「なんでそこまでして私を別の世界に行かせたいの」
「それは内緒。言えないわ」
ますます怪しい。でも、別の世界での人生。悪くないかもしれない。正直、つまらなすぎて刺激を求めていたし、別の世界がどんなところかも気になる。もしかしたら、私がやりたいことを見つけることだってできるかもしれない。
「こっちの時は止まったままにするってことは、あっちの人生が終わったらこっちに戻ってこれるってことよね?」
「そうよ!今ここで止めたら、ここからまた始めるって感じ!でも、さすがに長時間時間を止めるのは無理だから、別の世界では25~30年くらいしか過ごせないと思うわ」
25~30年か。短い気もするがこっちに戻ってこれるならいいか。
「どう?人生番外編やってみる?」
人生番外編って…。まぁ、たしかにこっちの時間を止めているならそうかもな。
別の世界での生活は面白そうだし、ちゃんとこっちに戻ってこれるなら…。めちゃ怪しいけれど、行ってみようかな。
「んー、そうね。行ってみよう…かな。終わったらちゃんと戻してよ?」
「わかってるわよ!じゃあ、始めましょうか。人生番外編を」
少女がそういうと目の前が光り、私は思わず目を瞑った。
目を開けるとそこには知らない天井があった。綺麗な模様が入った天井だ。
「あぅあー」
言葉が上手くでない…。これはあれか、赤ん坊からってやつか。
周りにいる大人たちが何か言ってるが、言葉がわからない。
でも、使用人っぽいしきっとこの家は金持ちなんだろう。よかった、スラムとかじゃくて。正直、日本という平和な国で普通の家庭でのんびりと育った私は、厳しい環境では生きていけないからな。
だが、もし、私がお嬢様とかだとしたら、礼儀作法とかダンスとか習わされんだろうか…。嫌だ…。めんどくさい。
とりあえず、言葉を覚えて情報集めないとだな。常識も違うだろうから、その辺の勉強だけはちゃんとしよう。
こうして、私の人生の番外編が始まった。