決着。
戦うのが好きなんじゃねえ‼︎勝つのが好きなんだよ‼︎
「兵は詭道なり、見える伏兵とでも名付けようか」
晴政が兵に合図する。
荷駄隊に偽装した南部軍の本隊による攻撃は、斯波軍にとって奇襲された形となった。
斯波軍の頭上に矢や石が雨あられと降り注ぐ、南部軍本隊は斯波軍を半包囲した形で兵を配置しているため、戦場に射線の交差する殺し間が出現した。
一方的に被害を受ける斯波軍、兵達の間に動揺が広がる。
「狼狽えるでない‼︎応戦じゃ‼︎」
しかし斯波詮高は的確な指示で軍の態勢を立て直す。
確かに今の南部軍本隊の攻撃で、斯波軍第1陣には相当数の被害が出た。だが第2陣と詮高自らがいる本隊はほぼ無傷なのだ。
南部軍本隊が半包囲の形をとっているということは、薄く広い陣形だということ。第2陣と本隊で全力で真っ直ぐ攻撃を加えれば、必ず打ち破る事が出来る。
「前進じゃ‼︎南部晴政を討ち取れい‼︎」
詮高の号令で、降り注ぐ矢や石による被害を出しつつ、斯波軍が南部軍本隊へ迫る。その時、前線に再び異変が起こる。
何が起きたのか?
南部軍は飛び道具による攻撃を加えながらも、荷台と荷台を頑丈な縄で繋いでいた、縄や荷台の上に木楯が設置される。
「弓隊、投石隊は後ろへ。槍隊、前進」
南部晴政が指示を出し、新たな陣が戦場に姿を現した。
それは即席の砦、万全の軍なら一笑に付す程度のもの。しかし死中にあり動揺の広がった斯波軍には高すぎる壁であった。
軍とは急に止まる事が出来ない。斯波軍第1陣はそのまま南部軍本隊が築いた砦に向かい南部軍の槍衾の、弓矢の、はたまた投石の餌食となった。
この堅陣は、突破できない。できないということはどうなる?
敗ける?
斯波軍の将兵達に絶望が漂う。
そしてそれはもう遅すぎた。攻めあぐねる斯波軍の後背に激震が走る。
反転した南部軍の両翼が、斯波軍の後背を強襲した。
「突き崩せい‼︎」
「行け‼︎」
南部軍の左翼を指揮する九戸信仲、右翼を指揮する大浦守信が斯波軍第本隊を後背から苛烈に攻撃する。
やがて斯波軍本隊はその勢いに押され前に向かって後退を始める。
「落ち着け‼︎落ち着けえ‼︎」
斯波詮高が懸命に呼び掛けるが、一度崩れ始めた軍はもう立ち直ることは無い。
そして斯波軍本隊が逃げ出した先には何があるか、そう南部軍本隊の即席要塞である。
結果身動きの取れない斯波軍第2陣と第1陣は、逃げ出す斯波軍本隊の味方の波によって押し潰された。
壊乱する斯波軍、機は熟した。
「……崩れた」
南部晴政はそう呟くと新たな指示を出し、自らも颯爽と飛び出す。
南部軍の誇る騎馬隊が即席の砦から打って出た。
「滅ぼすぞ」
晴政の一言と共に南部軍の騎馬隊が壊乱する斯波軍に向けて容赦の無い攻撃を加える。
騎馬隊にて一当てした後、槍隊も砦から出て前進。逃げ惑う斯波軍を一方的に刈り取っていく。
南
南部軍左翼
↓
東 斯波軍←南部軍右翼 西
↑
南部軍本隊
南部軍即席砦
北
南部軍右翼を率いる大浦守信には南部晴政より、あらかじめある指示が出ていた。
斯波軍の後背を突きつつゆっくりと、西側に回り斯波軍を追い立てよと。
指示の通り、南部軍右翼はゆるりと位置を変え斯波軍を西から攻撃する形となっていた。
三面包囲、孫子いわく完全包囲の場合、敵も逃げ場がない分必死になって戦うため、かえって被害が大きくなってしまうのだとか。
人は本当に恐ろしいとき、逃げる生き物である。
斯波軍は逃げた。将も兵も誰もが本能的に逃げ道である東へと逃げた。立ち止まったら、死ぬのだ。
南部軍はそれを追う。背中を見せる敵を一方的に殺しながら東へ東へと追い立てる。
東にのみ生きる道がある。斯波軍は危機的状況にあり、誰もがあることを失念していた。
最初にそれを目撃したのは、逃げ足が速くて運のいい足軽の又八だった。
東には斯波の民達を育む大いなる恵み、人の諍いなど知らぬ存ぜぬといった風に、北上川がいつも通り穏やかに流れていた。
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南部軍は斯波高詮を含む大量の首を軍の先頭に掲げて進軍、斯波軍の生存者なしの報告は現地の国人衆達を震え上がらせた。
国人達は我先にと南部家に臣従し結果、斯波家の本拠地である高水寺城は南部家に降伏した。
籠城していた斯波家の一族は女子供関係なく斬首。戦国大名斯波家はここに滅亡することとなった。
斯波家と繋がりの深かった稗貫家、和賀家も斯波家の惨状を聞いて、明日は我が身と南部家に服属を誓った。
この戦いにより南部家は陸中(岩手県)の南半分を手に入れ、陸奥国のほぼ半分を有する東北随一の勢力となった。
しかし戦いは始まったばかりである。南部軍は新たに服属した国人衆、そして稗貫家と和賀家からも兵を召集し、その矛先を戸沢家へと向け進軍を開始した。
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視点 北信愛
「すごい……」
北信愛は驚愕していた。
信愛はこの戦で、晴政の出す一見意味不明ともとれる数々の指示に忠実に従い、実務的な面で差配する役目をしていた。
結果は戦前に晴政に言われた通り、大勝の中の大勝。
斯波軍と南部軍は互いに1000人規模の軍勢でぶつかり合ったというのに、南部軍に被害らしい被害はなく一方的な戦となった。
戦術、人心、地形。全てが最大まで活きた芸術とも言える戦に高揚するとともに、その優秀な頭脳はもし自らの主君が敵だったらという場面を思い、背筋にうすら寒いものを感じていた。
もし自分が敵方だったとしたら、この首の仲間入りをしていただろうな。
南部軍の先頭に串に刺して掲げられた斯波兵達の首を見る。首は全てが恐怖に歪んだ表情であったが、斯波詮高の首だけはこちらを真っ直ぐな目で睨みつけていた。
まこと天晴れなものだ。この方も充分に良将と言って遜色のないお人だったのだろう。
ただ相手が悪かった。
首を晒す前代未聞の行軍も斯波一族の皆殺しも、晴政様が自らの名をもって行われたことだ。あの方はその罪も咎も全てを請け負うつもりなのだろう。
なんと残虐で、なんと力強く、なんと美しい。
でも私はそんなとびっきりに歪んだ器に魅せられたのです。
晴政様、私はただ付いて行きます。
後世にて三戸城の宝物庫から多数の絵が見つかっているが、その中にとても珍しいものがある。
涙を流すおぞましい姿をした漆黒の怪物と、その傍に寄り添う白銀の仏である。
絵の題は[晴政主従図]だが、何を持ってこの不可思議な絵がそう名付けられたのかは、未だ良く分かっていない。
こんな作品でも1000人以上の人が読んでくれてるのが、なろうの凄いところ。




