表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/62

宗教。




「オレが南部陸奥守晴政だ。皆様方、遠路遥々ようこそおいでなすった」


 八戸城内にて、宣教師の一行は南部晴政に謁見していた。


 白髪混じりの総髪に滝のような髭を蓄えた、どこぞの蛮族のような風貌をした男が、足を崩して彼らを値踏みする様に真っ直ぐと見つめていた。


 感情というものを一切覗かせないその目に、心の内を全て見透かされているように感じた彼らは、意識せずとも体が恐怖に震えてしまう。


 羆の毛皮にすっぽりと覆われた大きな体軀が、返答を急かすようにみじろぎした。


 目の前の国主から発せられる気迫に気圧されて、しばらく黙り込んでしまっていた宣教師は、慌てて此度の要件を伝えるように通訳に促す。


 願い出たのは勿論、領内でのキリスト教の布教。それに伴う南蛮との貿易の利益についても、事細かに説明を行った。


 彼らの話に黙って耳を傾けていた男は、話を聞き終えると懐から取り出した煙管に火を付ける。


 しばらく思案する様に煙を吹かしている。

 

 返答を待つ者にとって、その沈黙が返って恐ろしかった。周りは彼に忠実な百戦錬磨の武士達で固められているのだ。


 彼の気紛れ如何で容易く自分達の首が飛ぶ。


 その事実が彼らに重くのし掛かっていた。


「……この煙草、お主らのもたらした物だったな。ウチでも作れるし、良く売れるから良い金になってる」


 晴政が満を持して声を発した、そのまま言葉が続く。


「布教は自由だ、南部氏網羅法度次第でもそう決まっておる。法の上では裁くことが出来ぬ。


 ただし、お主らが南部に害をなす者なのか、利をもたらす者なのか、それが肝要だ。


 場合によっては()()()()()に遭って、命を失う事になるかもしれんなあ」


 一行は戦慄した。薄々感じてはいたが、目の前の男の精神性は、西国の由緒正しい教養人のような武士達のそれとは違う。


 武士では無く暴士とでも言おうか、南部晴政は金と暴力の統括者なのだ。


 それでも臆する訳には行かない。祖国と神のため、利益を求めているのは宣教師達も同じなのだ。勇気を持って、目の前に座する暴力の王に問い掛ける。


「……害。それは具体的には?」


「例を挙げるなら、まずはお主らが九州で行っている奴隷貿易」

 

「……分かりました。貴方の領国では一切行いません」


「……? 何を勘違いしている。


 奴隷の売買を禁止するのではない。労働力の流出を禁止すると言っているのだ。他国から攫って来た奴隷を我が国に売ってくれるのは大歓迎だ」


「……他には?」


「信仰を利用した民衆の煽動は禁止する。あくまで支配者は南部家だ。これに類する行いは例外なく処断する。尚、処刑は特例として断頭台では無く、火炙りに致す」


「……くっ、それでは利とは?」


「物だけではなく、技術が欲しい。お主らの学術、建築術、航海術。それらの貢献に応じて、布教も貿易も手厚く支援しよう」


「……話になりませぬ。我らの数百年の技術の積み重ねを、貴方に明かせと? 交易も布教も無理だ。帰らせて貰う」


「帰れると思っているのか?」

 

 彼らが咄嗟に振り返ると、出口は既に大勢の兵士に固められていた。


「貴様……‼︎」


「落ち着け、お主らにとって見過ごせない話もある。お主らは西班牙(スペイン)人だったな? 


 もう既にこの国内で、葡萄牙(ポルトガル)人と露西亜(ロシア)人が布教と交易を始めている。随分と上手く行っているみたいだぞ。


 お主ら、本当に帰るか?」


「なっ⁉︎」


 ポルトガルに交易の利権を奪われる事は言わずもがな、ロシアに至ってはキリスト教の東方正教会であり、宗派すら違う。


 彼は予想だにしなかった状況に苦悩する事となった。


 自らの国だけが出遅れている状況。しかし日本へ南蛮船が来航するようになってから、そうそう長い時間が経っている訳ではない。南部領への布教と貿易に参入するのに、今ならまだ間に合うかも知れない。


 何より世界帝国を自称する彼の国の自尊心が、他国に出し抜かれることを許さなかった。


 そして最終的に出た答えは一つ。




「……承知……致した……」




 その言葉を聞いて、晴政は態度を急変させた。剣呑な雰囲気は鳴りを潜め、にっこりと微笑む。


「良し、これからよろしく頼む‼︎ こいつは初期投資だ。お近付きの印にどうか受け取ってくれ」

 

 晴政が合図を出すと、どこからか漆塗りの箱がいくつも運ばれて来る。


 晴政が蓋を開けると、中には箱一杯の金塊が入っていた。


 強欲な商人としての顔を合わせ持つ宣教師の一行は、その輝きに心を奪われ、先程までの諍いを一時忘れ、思わず笑みが溢れてしまうのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 永禄12年(1569年)




 とある寺の仏堂で極秘の会議が行われていた。


「南部家の行い、最早見過ごせぬ」


「神仏を徹底的に蔑ろにし、昨今ではキリスト教なる邪教にも傾倒しておる様子」


「あの金の亡者め……。


 我らが持つ利権をことごとく、無意味な物へと変えてしまいおる」


「しかし、どうすれば良い? 


 南部領で一揆を呼び掛けたがさっぱり人は集まらんかったし、あっという間に皆殺しにされてもうた。


 全く惨いものよ……」


「現地の僧侶もあれ以来、独自の利権を提示されて、抱きこまれてしまった。同じ手は使えぬ」




「皆様方、拙僧に一つ案があります」


「何だ、申してみよ」


「わざわざ我らが血を流す事はありませぬ、我らは金と大義名分を与えるだけで良い。戦は武士に任せるのです。


 幸い去年、南部家と敵対する彼の両雄が同盟を結んだと聞き及んでおります。


 彼らを南部家にけしかけましょう」


「……まこと妙案也。一応聞くが、その両雄とは?」






「昨年、越相同盟により和解した、我らとも関係が深い上杉家、北条家の両家です」


「……すぐに取り掛かろう。彼奴らに呼び掛けて、仏敵南部を滅ぼす。これ正に阿弥陀仏の意思也……」




 神仏を掲げ、死後の幸福を説き、人を殺し合いに導く僧侶達。


 俗世の欲望を掲げ、限られた生での富める喜びを説き、人を殺し合いに導く南部晴政。


 両者は始めから相入れる筈が無かった。


 (ヒト)を救うのは果たしてどちらなのか、二つの外道が衝突する。






 殺し合いの中に、幸福や救いが、存在する筈も無いのだけれどーーー






晴政、イキってんなあ〜。

実はこの男、51歳である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ