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諸国探訪。

評価、感想、いつでもお待ちしております。




 南部家は天文24年(1555年)から永禄3年(1560年)の期間は、急激に広がった領土の支配強化のため、他領への本格的な侵攻など目立った行動を起こしていない。


 賢明な読者の皆様にとって、親の声より聞いた話かも知れないが、その間に起こった主な出来事を通して、状況を整理しておこう。






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 天文24年(1555年)、関東では扇谷上杉家、山内上杉家の両家を下した北条家が、当主の北条氏康の甥で義息でもある古河公方、足利義氏との関係を強化し、関東の制覇へと着実に前進していた。


 前年に結ばれた武田家、今川家との甲相駿三国同盟によって後顧の憂いが無くなり、東関東(茨城、千葉、栃木)の佐竹、里見を始めとした諸侯との睨み合いが続いている。


 正に絶好調とも言える北条家だが、北条氏康には大きな心配事があった。


「春になったらあのイカれ野郎共が、攻めて来るかも知れない……」


 イカれ野郎共とは二人の男を指している。


 片方は大体予想が付いているかも知れないが、南部晴政のことである。


 詐欺、欺瞞、鬼手、禁じ手、略奪、虐殺、何でもありの武士の風上にも置けない北方の覇者だ。


 ただ欲望のままに他者から全てを奪い取る最強の戦術家。余りにも厄介過ぎるし、恐ろし過ぎる。


 本能の為せる狂気の強さに、信義やまやかしは通用しない。


「晴政は言うなれば、海と金のある晴信(信玄)ってところか、改めて聞くとあんなのと領土が近過ぎるのは不幸な事この上ない。佐竹と宇都宮には同情するぜ……」


 もう一人、北のヤバい奴と並べられるという不名誉を得たのは、越後(新潟)の長尾景虎。


 北条家は関東管領の上杉憲政に勝利し、関東から追い出したのは良いが、彼が逃げた先で頼ったのが長尾景虎だった。


 分裂していた越後をその軍才とカリスマ性のみで纏め上げた手腕、何の利も無い他国への救援に頻繁に出陣する異様性。


 正直、何を考えているのか分からないが、それに家臣や越後の領民達が大人しく従っている光景は、不気味であり、また神秘的な物すら感じさせる。


 今は信濃(長野)にて武田家との戦に注力しているが、そちらが一段落したらまず間違いなく関東へ出陣して来るだろう。


 常識的に考えれば、山を越えて遠路はるばる関東へ攻め込んで来るなど、正気の沙汰ではないのだが、景虎ならそれをやりかねないという予測不能さがあった。






[俗]だから強い晴政と、[神]だから強い景虎。


 二つの狂気に睨まれた関東の運命や如何に。






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 弘治3年(1557年)、甲斐(山梨)の武田家は、今川、北条との三国同盟によって、戦力を北側に集中させる事が可能となっていた。


 これにより信濃(長野)への伸長を進め、完全な制覇まであと一歩と言ったところだった。


「御屋形様、その手紙は?」


「……南部陸奥守よりの……」


「またですか……」


「……珍しく、中身のある内容じゃ……。同盟を望んでおる……」


「何と‼︎ 今川様、北条様に加え南部様も味方になったら心強いですね‼︎」


「……馬鹿者が、ど奴も我らの味方ではない……。同盟とは、利害によって成り立っておるのだ……」


「も、申し訳ございませぬ……。それでは南部様の利とは何なのでしょう?」


「……長尾の尻堀り(なり)……。我ら武田を利用して、互いに越後を挟み打ちにするつもりじゃ……」


「し、尻堀りっ⁉︎ それでその同盟、受けられるので?」


「……越後は独力で勝ち取れる目がある……。南部にくれてやるのは面白うない……。保留じゃ……」


「……なれば、此度も真っ向勝負ですね」


「……然り……、景虎の若造に遅れは取らぬ……」


 無口な男は書簡を放り投げ、立ち上がった。


 




「いざ、川中島へ……‼︎」






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 永禄3年(1560年)、尾張(愛知西部)へと向かう大軍勢の中心で、輿に乗った品の良い男が大きなあくびをすると、眠たそうに呟いた。


「ああ、退屈だ。乱世はなんて退屈なんだ」


 ふと周りに見ると、ガチャガチャと煩わしい音を立てる、やる気に満ち溢れた軍勢が目に入った。


「こいつら急に尾張攻めようとか、元気出しちゃってさ。オレの作った新しい仮名目録の草案見ても何にも理解出来てないくせに、良く偉そうに戦争がどうとか語れるよね。南部さんにどれだけヤバいことやられちゃってんのかも理解出来てないしなあ。まあ今の日の本で、それが分かってんのは尾張のうつけ君くらいか」


 しばし現実逃避をするため、輿の中で寝転がると、持ち込んだ書物を読み始める。


「海の向こうには、明国がある、天竺もある、南蛮人の国まである。だってのにこんな豆粒みたいな島の中で、来る日も来る日も奪い合いか。日の本の名門が何だって言うんだか、下らないなあ」


 やがて書物を読むのも面倒くさくなり、書物をその辺に放ると、軍勢に休息を取るよう指示を出し、自分も少しの間仮眠を取ることにした。


「桶狭間だったっけ。この辺の地形、奇襲には持ってこいだな。相手が狙って来たら負けちゃうな。まあこんなつまんない時代からおさらば出来るなら、それはそれで悪くないか」


 男、今川義元は考えるのを止めて、そのまま目を瞑った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 



 辺り一帯に突然降り出した豪雨の中、僅かな手勢を率いて進むある一人の若い男がいた。


 目的は領内へ侵攻する敵軍の本陣を奇襲することである。その場所は未だ不明だが、何かに突き動かされるように男は進み続ける。

 

 豪雨の助けもあって、半ば奇跡的に敵軍の目を掻い潜り、正確に敵の本陣へと近付いて行く。


 そして突然降り出した豪雨が突然晴れた時、それは偶然か必然か、男の手勢は敵軍の本陣を眼下に見下ろす位置へと陣取っていた。


 男は天を見上げて呟く。






「嗚呼、つくづく惚れちまってる、乱世なる物に。惨たらしい殺し合いも、血で血を洗う謀略も、民をその手で思うままに動かす(まつりごと)も、人も情も武器も刑も、何もかもが愛おしい」


 この時代に生まれたことが、幸せだった。


「今川義元はどんな奴か? 三好長慶は? 武田晴信は? 長尾景虎は? 北条氏康は? 南部晴政は? どいつもこいつも、どれだけワシを楽しませれば気が済むのだ」


 今から戦場に飛び込むというのに、男は緊張など全く感じていない様子で、薄く笑っていた。


 乱世が楽しくて仕方がない。


 故にこの国の、乱世の全てを平らげて、存分に楽しんでやろうではないか。






「楽しい楽しい、天下取りへの初陣だでや」






 この男の名を、織田三郎信長と言う。






一つ前の話を皆様からのアドバイスを元に、ちょびちょび改稿しています。気が向いたらもう一回読み直して下され。

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