少年よ、大志を抱け。風神は子供抱いてる。
いつの間にか8000ポイント超えてる。嬉しい。
引き続き応援よろしくお願いします。
「最早、これまでか……」
山形城に籠城する最上義守は、大宝寺軍の大敗の報を受け動揺の広がる城内を見て、戦いの限界を悟った。
側に控える重臣の氏家定直も理解しているのだろう、こちらと目を合わせず口を噤んでいる。
大宝寺義増を始めとした将兵達の首が串刺しにされ、こちら側に見える様に高く掲げられている。
何たる非道、何たる非礼。しかし勝っているのは南部軍で、奥羽の平定に王手を掛けているのは、南部晴政なのだ。
包囲する南部軍から当主である義守が自害すれば、将兵から一族まで助命するとの通達が来ている。
「恨みはない、これも乱世の習いよ。それに南部家は逃げ道を残してくれている。オレが誇りと家族を失わずに済む道を……」
「義守様、私もお供致します」
「ならぬ‼︎ 定直、お主は生きてオレの愛した領民達と家族を、これからも守ってやってくれ。頼んだぞ」
「……しかと承りました。介錯だけは、させて頂きます」
「有り難し」
「何かご家族に言い残されることは、ありますか?」
「息子に一つだけ伝えてもらおうか。愚かな父の如く生きなくても良い、南部晴政の如く強く自由に生きてくれと、あいつなら、白寿ならそれが出来る」
「……義守様、それでは……」
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大宝寺軍が撃退されてから一週間後の正午、最上義守は降伏の意を示した。
山形城は開城され、即座に南部軍が入城。
最上義守は家臣と南部家の諸将の前で、見事な最後を遂げた。
最上家は数人の家臣を残して縮小され、まだ幼年の嫡男の白寿を当主として、南部家に取り込まれることとなった。
「一族郎党、皆殺しにしないなんて珍しいですね」
「……前から思ってたんだが、オレに対するその印象はどこから来ているんだ? そこまで頻繁に族滅させてる訳じゃないのだが……」
指揮を終えた北信愛と晴政は一息ついて、和やかに談笑していた。
「……あれ? そういえば、そうですか……。無礼なことを申しました。申し訳御座いませぬ」
「まあ必要以上に殺し過ぎてるのも事実だ。大宝寺軍との戦でも、気が高ぶっちまってな……」
「いえ、あれ程の勝利は晴政様の武威を、より広く諸国に知らしめる事になりましょう。決して悪しき事ではありません」
「いんや、悪人中の悪人だよオレは。反省も後悔もしていないがな、地獄でひとっ風呂浴びる覚悟ならしてる」
晴政は遠くを見つめて、ふふんと鼻を鳴らした。子供染みた物言いで、全ての咎を自分が引き受けると平然と言い放つ主君の姿に、思わず笑みが溢れた。
その時、陣幕に小さな影がひょっこりと現れる。
「おや? 客人みたいですよ」
「随分と可愛い客人だな」
陣幕に入って来たのは、まだ5歳くらいの小さな少年だった。しかし周りを固める護衛達は突然慌て出し、少年と二人の間に割って入る。
「晴政様、信愛様、お離れを‼︎ この小僧、最上の嫡男です‼︎」
「最上の? じゃあ新しい当主の白寿殿か」
「噂では捕らえたときに兵士の指を噛みちぎって、そのまま投げ飛ばしているそうです。まだ幼いからと言って油断してはなりませぬ」
「へえ、大したもんだ」
「……お父を殺した、南部陸奥守ってのはどっちじゃ?」
少年は小さな体に見合わぬ鋭い眼光で、晴政と信愛を睨んだ。
「こっちの男前な野郎です……」
「ちょっ⁉︎ 晴政様、冗談になってませんから‼︎」
「……というのは冗談でオレが南部晴政だ」
始めからある程度察していたのだろう、少年は現れた時からずっと晴政だけに視線を集中させている。
「お父は強かったか?」
「立派な御仁だったな。お前がまだ生きているのも、父上のおかげだぞ」
「ならどうして負けた?」
「それこそ簡単なこと。オレの方が強い、それのみよ」
「……最後に、お前のように生きろと言われた。これ如何に?」
「お前の父上が何を思って言ったのかは知らんが、まあ、お前なりにこれからは南部晴政を見て生きてみろよ。答えはその中で求めたら良い」
「……どうして」
「?」
「どうして、白寿は生きなくてはならん……。最上なんて名前だけじゃ、もう何も残ってないのに、なして白寿は惨めに生きなきゃならん……」
少年は嗚咽を漏らしながら、晴政と自分自身に問い掛ける。ぽたぽたと熱い涙が零れ落ちた。
「……この乱世で惨めに生きる、などと言う事は存在しない。どれだけ名誉ある死を遂げても、泥まみれになって生き抜く者の美しさには敵わん」
「目的もなく、ただ生きろと?」
「いや、それは違う」
晴政はそう言って、見張っていた護衛達が止める間もなく、突然少年の側に駆け寄ったかと思うと、そのまま彼を抱き上げた。
「な、何をする。離せ‼︎」
「目的はその短い生の中で、各々で見つけるしかないのだ。故にオレからその答えを教えてやることは出来ぬ、だがな……」
「……」
「お前はもうオレの大切な家臣の一人だ。この晴政が守ってやろう、惨めな生き方などさせん。そしてオレがこれからお前に与える生を通して、お前が見つける目的が素晴らしい物であることを願っている」
「……あんたは父の仇だ。あんたを殺すのが目的になるかも知れぬぞ?」
「はっはっは、それはそれで素晴らしいでは無いか」
「……ふん。晴政、いや晴政様。そろそろ降ろせ」
「誰が降ろすか、このまま陣中を回って晒し者にしてやろう。生意気な小僧め」
「お、おい、止めろ‼︎」
「そうかそんなに嬉しいか」
嫌がる少年、強制するおっさん。二人の間にどこか犯罪的な光景が繰り広げられる。
泣き止んだ少年が、再び泣きかけたところで、陣幕に新たな訪問者が現れた。
髭を掴まれて形勢が逆転しかかっていたところで、二人は咄嗟にそちらに目を向ける。
そこに居たのはどこか少年と似た雰囲気を漂わせる、美しい少女だった。
「……信愛、ウチの警備体制は大丈夫なのか? 総大将の陣幕に今日だけで、二回も子供の侵入を許してるぞ」
「はあ……、何分、子供に甘い者が多いもので……。晴政様に影響されているのですよ?」
「そうか、今度から幼子でも殺す事にするか」
「申し訳ありません。兵士達には良く言って聞かせて置きます」
軽口を叩く晴政と信愛に反して、未だに晴政に抱き抱えられる少年は目を見開いて驚いていた。
「義……‼︎ 大人しく待っておけと言っただろう」
「わたち、お兄しゃまが居ないと、すぐに寂しくなってしまいます」
「くう……」
顔を赤くして俯いてしまった少年を見て、晴政は悪い笑みを浮かべた。
少年の耳元で囁く。
「おう、お兄ちゃん。何も残ってないって? ちゃんと大事なもん、残ってるじゃねえか」
少年はしばらく押し黙ったかと思うと、晴政を睨み付けながらドスの聞いた声で呟いた。
「妹に何かしたら、……殺す」
晴政は戦場でもそうそうお目にかかれない程の鬼気迫った表情を見て、嬉しそうな顔をすると、黙って少年を地面に降ろした。
シスコンに悪い奴はいない。




