晴政の絶望。
南部家の家臣達の官職が出てきますが、調べても分からなかった人は、適当に付けました。
この時代はほとんどが自称だったみたいだし、深くは気にしないで下さい。
天文22年(1553年)
南部家本拠地 八戸城
正月評定
「この五年間じっと辛抱して国力の拡充に努めてくれた諸君に、まずは礼を言おう。そして機は熟した……‼︎ 南部家は今年より、奥羽全土の平定に移る」
突然告げられた晴政の言葉に、集まった南部家の諸将がざわつく。
コホンと晴政が咳払いをする。
内乱の多かった南部家は晴政の指示のもと、強固な中央集権体制へと移行していた。
話を遮っただけで首を飛ばされても、おかしくはない。場は再び静まり返った。
「そこで……だ。皆が集まったこの場を借りて、ひとつ、くじ引きをしてもらいたいのだ。高信、信愛、守信、信仲、こちらへ」
くじ引き? 戦の吉凶でも占うのか? 諸将は首を傾げるが、呼ばれた四人は当然、断る訳にも行かず、晴政の差し出すくじを引いた。
石川高信、北信愛、大浦守信、九戸信仲。四人は最初期より晴政に仕える、有力な家臣達である。
彼らの引いたくじに書かれていたのは、思いもよらないものだった。
石川高信 担当[蘆名]
北信愛 担当[最上、大宝寺]
大浦守信 担当[伊達]
九戸信仲 担当[相馬、岩城]
「奥羽を制圧したら、日の本各地の覇者達との戦いになる。戦の規模が大きくなるだろう。オレでは無くお前らに、一軍を率いてもらうこともあるかも知れん。そこで今回は、各々が総大将としての経験を積んで貰うために、このくじを用意した訳だ」
「っ‼︎ つまり我々は、このくじに書かれた相手をそれぞれ担当しろということですか⁉︎」
晴政の突飛もない提案に信愛が驚愕する。
「その通り、ただし兵力を分散させる訳じゃない。各個撃破されては目も当てられないからな。くじに書かれた者の相手をするときに、全軍を率いてもらうということだ」
「……全く、この甥っ子はこの老いぼれに、いつまでも楽しませてくれるのう……。決まりじゃ、晴政様‼︎ 石川左衛門尉高信‼︎ しかと承り申した‼︎」
「相変わらず、面白いことばっかやってくれんなあ、晴政サマよう。やっぱあんたは最高だぜ‼︎ 九戸右京大夫信仲も承った‼︎」
「……大浦左京大夫守信も右に同じ」
「……北尾張守信愛、謹んで拝命致します」
鬼が出るか蛇が出るか。晴政の半ば気紛れとも言える戦が、四人の同意と共に今始まる……‼︎
と、その前に信愛がある事に気付く。
「……晴政様、くじが一本残っていますが、晴政様の分では? もしや佐竹か長尾ですか?」
「……いや、これはだな……。信愛、優秀過ぎて気付かなくて良いところまで気付いてしまうのが、お前の悪いところだぞ……」
「……何か隠しておられますね」
「いや、数を間違えただけだ……。断じてお前らに罠を仕掛けた訳ではない……」
その時、明らかに動揺している晴政に、側で見ていた信仲が仕掛ける。
「引いてみれば分かることだろうが、そら‼︎」
「おいやめろ、何をする。ああっ‼︎」
信仲は晴政からくじを取り上げようとする。
晴政は必死に抵抗する。
二人がもつれ合っていると、何かの拍子に晴政の持っていた箱から、最後のくじが飛び出した。
木製のそのくじは宙を舞った後、からりと音を立てて、評定の間にいる家臣全員から見える位置に落下した。
「「「こ、これは……‼︎」」」
それが場にいる全員の前に晒されると、晴政は半泣きになり、床に両手をついてうなだれる。
しかし同情したり、心配する者はいなかった。
この男は真面目な顔して、きっちりと罠を仕掛けていたのだ。
くじには大きな字で[使い走り]と書かれていた。
南部晴政 担当[パシリ]
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「兵糧も武器も順調に集まっているようだな」
「そりゃそうだぜパシリ様。何のための五年だったと思ってやがる」
「パシリ様〜、この槍向こうに運んどいてくれ」
「パシリ様〜、そろそろ昼だ。みんなのメシ取って来てくれ」
「……これは自業自得だ。我慢しろ、オレ」
晴政は有り体に言えば拗ねている。
雑兵達の間に礼儀などという物は存在しない。すっかりパシリ様で定着してしまった己の呼称を聞く度にため息を吐くのだった。
まさか四人の内、誰かに引かせるつもりだったパシリ役を見事に回避されるとは……。
オレもまだまだ未熟だな。
戦が始まろうとしているというのに、悔しさのあまり次なる罠を考えていた晴政は、ある事を思い出して、伊達家との戦で総大将を務める予定の大浦守信の元に向かった。
「よう守信、調子はどうだ」
「あっ、パシ……じゃなくて晴政様。何か御用でしょうか?」
諸将に割り当てられた部屋に入ると、守信は軍議用の大きな机一杯に広げられた、大量の資料と向き合っていた。
地図に地形、兵数に兵科、敵味方の各武将の関係など、その内容は様々だ。
「伊達と戦することを見越して、仕掛けておいたものがある。ちょっと耳を貸せ」
晴政が誰にも聞かれないように、守信に耳打ちする。
「……っ⁉︎ 晴政様、本当に貴方って人は、どこまで……‼︎」
「不服か? 別に使うかどうかは、お前次第だぞ」
「いいえ、貴方はやはり最高だ。実に私好みです」
守信は不気味な笑みを浮かべて、やや考えるそぶりを見せると、己の頭の中にて戦の形を完全に固めた。
元々豪族の連合体だった南部家において、大浦家、九戸家などは下手をすれば、南部宗家と同格の地位を持っていたとされる。
彼らがこの時代から未来に掛けて、宗家へと大人しく従うようになるのに、南部晴政の存在が重要なファクターとなった事は、歴史家達の間では疑うべくもない周知の事実である。
当事者以外は、カリスマやリーダーシップだとか言った月並みな言葉で評することしか出来ない。
しかしこのとき、主君に対して家臣達が感じていたのは、実に簡単な感情であった。
この男は、南部晴政は面白い。
タイトルから滲み出る不穏な空気と、それに対する内容の下らなさ。
私はジョークを解する男なのだ。




