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戦争前夜。


 

 

 皆さんどうも、南部晴政です。



 突然だが、強兵と弱兵という言葉を知っているだろうか?


 よく聞く言葉だと尾張(織田家)の弱兵、三河(徳川家)の強兵。


 甲斐(武田家)と越後(上杉家)の兵は強いとか、甲斐の騎兵と薩摩(島津家)の歩兵は精強で知られるなんてのも聞いたことがある。


 なぜそう呼ばれるのか、尾張と三河の話は常備兵と農民兵の違いとか、忠誠心とか、なんかややこしくなるので割愛。


 では甲斐、越後、薩摩の兵はなぜ強いのか。諸説あるが、厳しい気候によって鍛えられ、更に他者から奪わなければ生活ができないといったハングリー精神があるからだと言われている。


 何が言いたいのかわかっただろうか、我らが南部の兵士達にもポテンシャルはあるんじゃないかということだ。


 気候の過酷さでいったら冷害、豪雪は毎年のように起こる。


 南部領はこの時代、主要な馬の産地であり、南部馬は木曽馬と並ぶ名馬だと称賛された。


 なんというか侵略したことが無いのだ。食べるものがないとき盗むよりも大人しく死ぬことを考えてしまうのだ。


 オレは侵略戦争によって領土拡大とともに意識改革を行うことにした。


 オレの中の南部晴政という戦国武将が燃えている。奥羽のことごとくを平らげたとき、戦国の強豪の1人として南部家の名は天下に轟いているだろう。


 座して死を待つべからず、南部晴政の生涯に渡る戦いが始まった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 天正12年(1542年)

 石川高信


 昨年再建が完了した三戸城の評定の間には、南部家の有力な家臣達が一堂に会していた。


 「何の用事があって呼び出したんだろうな、晴政サマはよ」


 相変わらずイマイチ忠誠の感じられない態度で、九戸信仲が口を開く。


 「信仲‼︎姿勢を正せ‼︎これから殿が参られるのだぞ‼︎」


 「あぁ〜、もう。声がデケえよおっさん」


 「なんだと……‼︎」


 「お二人とも落ち着いて下さい、まったく信仲殿はすぐに高信殿をからかうんだから……」


 大浦盛信はそう言って横から仲裁に入る。


 「晴政様のことです。どうせまた農地の整備計画かなんかを我々に分担させるだけでしょう。面白くない……」


 「戦狂いめ‼︎お主が1番腹黒なのは周知の事実なんだぞ‼︎」


 「またまた、人聞きの悪い。」

 

 盛信はそう言って嘘臭い笑みを浮かべる。こいつめ……‼︎いつものらりくらりとワシの言うことを聞き流しやがって。


 これならまだ叛心を隠そうともしない分、信仲の方がマシだ‼︎


 ハア……たまには信愛を見習って欲しいものだ。


 高信はため息を1つつくと信愛の方へ目を遣った。信愛は姿勢良く前を見据え、主の到着を静かに待っていた。


 「信愛、お主なら何か知っているのではないか、最近はずっと晴政様の側で仕事をしているのだろう?」


 信愛はこちらを一瞥し答える。


 なぜ呼ばれたのか本当に気になっていたのだろう。信仲と盛信も黙って信愛を見ている。


 「晴政様のお考えは、私には及びもつきません。ただ……最後に会ったときは、とても冷たい恐ろしさすら感じる表情で、軍の編成を見直しておられた……。つまりはそういうことなのでしょう」


 戦か……。ならばどこを攻める気だろうか?

 

 それぞれの疑問が最高潮に達したとき、部屋の襖が勢いよく開かれる。


 南部家24代目当主、南部晴政がそこに立っていた。


 晴政は諸将の前をづかづかと何の遠慮もなく歩み、さも当然だといった風に上座に腰を下ろす。


 しばしの沈黙の後、口を開いた。


 「戦争だ。標的は斯波家と戸沢家」


 評定の間がざわつく、晴政は構わず言葉を続ける。


 「2年前、幕府によって正式に認められた我らが南部家の領土に、奴らは恥も知らず攻め寄せた。


 此れ、1つ目の理。


 昨年、我らは反乱を起こした工藤氏を滅ぼした。家中は今までにないほど、纏まりを見せている。


 南に目を向けると伊達家で伊達植宗、晴宗父子の間に相続争い(天文の乱)が起こっている。あの辺りは血縁で雁字搦めだ。葛西も含めて我らにちょっかいをかける余裕は無い。


 西に目を向けると安東家、皆には黙っていたが先日、当主の安東舜季殿と密約を交わすことに成功した。戸沢家の領土の山分けだ。これにより我らの戦は最初から挟み撃ちの形になる。


 此れ、2つ目の理」


 おおっ、と家臣達の間に感嘆のざわめきが起きる。無理もない、もとから兼ねてより待ち望んでいた報復戦。それに準備も万端である。


 「流石です‼︎殿‼︎」


 思わず口に出てしまった。兄上の子が当主としてここまで立派になられるとは、南部家の未来は明るいだろう。


 高信が感じ入っているとその時、上座より再び声が上がる。

 

 「3つ目の理……‼︎」


 その一言で評定の間は静まり返る。


 「南部の無辜の民は今年も凶作に苦しんでいる。無い物は無い、仕方がないと今年も泣き寝入りか?


 否‼︎なければ奪うのだ‼︎幸い今は戦国乱世、何が起ころうと後世に残るのは勝利の2文字だけだ……。


 この戦で南部は奪う側になる‼︎


 再びこの部屋に集うときは奪った品々で宴にするぞ。当然、真ん中に3つの首を据えてな……」

 

 静寂に包まれた評定の間、それ以上主君の目を見ることができず、諸将は我先にと平伏した。




南部家は1540年に斯波家と戸沢家の侵略を受けています。

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