風神の狂気と馬好きの狂気。
三連休三連続投稿、二話目にございます。
キャラが多いとやっぱり難しいね。
天文16年(1546年)葛西家本拠地 寺池城下
「南部奥羽守様、この度は助太刀感謝致します」
「……」
葛西家の本城である寺池城を包囲する陣幕の一つにて、大崎家当主、大崎義直は奥羽の正当な支配者たる資格を有する南部晴政に謁見していた。
そもそも南部家として今回の戦は、南部家の断りなく執拗に大崎家の領土を狙う葛西家への制裁。
それを大義名分として出兵したものである。
しかし、あくまで大義名分はそうだという話だ。晴政は葛西家を餌に伊達家連合を釣り出し、合戦にて大打撃を与えようとしているのを誰もが知るところなのだが、それを咎める者はいない。
下手に逆らった者の末路が、既に近隣で噂になっている[南部の断頭台]への旅行ツアーとなることは、奥羽の武士から領民まで誰もが知るところだ。
つまり、南部もタダで出兵した訳ではない。あくまで目的は奥羽の平定である。
大崎義直は冷や汗を流していた。
どれだけ美辞麗句を並べようが、晴政は黙って自らを見通すような冷たい目で、 こちらを見つめるだけ。
彼の周りを固める南部家の重臣達も、彼の発言を恐れながら黙っている。
彼を風神と呼ぶ者もいれば、北の魔物と呼ぶ者もいる。義直はその理由の一端を垣間見たような気がした。
会話が途絶え、場が静まり返る。
その時、それを待っていたかのように晴政が口を開いた。
「……オレにとって大事なのは……だ」
「はっ、はい‼︎」
「援軍の条件にあった通り、大崎家の領土を南部家に明け渡す用意は出来ているのかということだ」
「勿論、存じております。して、どの程度をお望みで?」
「無論、全て」
「なっ⁉︎ それは流石に横暴では……‼︎」
「断頭台に連れて行け」
晴政の言葉と同時に、すかさず周りを囲んでいた護衛達が義直を取り押さえる。
「おっ、お待ちを‼︎ そも南部家に我が領土を支配する正当性は……」
「ある。貴様が今、自ら申したではないか? 南部奥羽守と……、不法占拠を止めろと言っているのだ。朝敵、大崎義直……‼︎」
「それは……‼︎」
「この陸奥、羽州の地を我ら南部家以外の者が支配するのに正当性はない」
「しかし中央の権威など最早、風前の灯火‼︎ 南部家に従いまする‼︎ だから領土と命だけは‼︎」
「ならぬ。領土も家来も全て南部に差し出し、オレの家臣となれ。お前の活躍次第では新たな領地も与える。それが従うということだ。首だけになったら、その減らず口も止まるのか? 楽しみだ」
義直を拘束する護衛達の力が強まる。
「わっ、分かり申した‼︎ 全て差し出して、南部様の軍門に下りまする‼︎ だから命だけは‼︎ 命だけはお助け下され‼︎」
その瞬間、晴政が何か合図を出したかと思うと、義直の体がすぐさま解放される。
晴政は地面に這い蹲る義直に駆け寄ると、しゃがみ込んで目線を合わせ、少年のような満面の笑顔を見せた。
「義直殿‼︎ これからよろしく頼む‼︎」
「……は、はあ?」
義直は荒い息をついて、呆気に取られたような様子で生返事を返した。
「お主の家族や家臣は良い主君に恵まれたものだな‼︎ お主が従わなければ、皆殺しにするつもりだった‼︎ そのみっともない命乞い、まことに天晴れ‼︎ お主が彼らを救ったのだ‼︎」
陣幕がばさりと音を立てて、取り払われる。
そこには馬車に据え付けられた断頭台と、そこに拘束された、今にも首を落とされんとする義直の家族や家臣達の姿があった。
自分が本拠地を出て南部軍の陣幕に向かう間の、僅かな時間で城が落とされ、彼らが捕らえられた? しかもそのまま自分を追い抜かして、先にここに到着してあの断頭台に拘束されている?
何もかも訳が分からなかった。
風神……、義直はそう呟いて、余りの緊張から小便を漏らし、意識を失った。
解放された彼の家族や家臣達は、義直のもとに我先にと大急ぎで駆け寄り、失神した彼に縋り付いて涙を流しながら、感謝の言葉を口にするのだった。
羨ましいヤツ……。
それを見ていた風神が一言そう漏らしたのは、側にいた北信愛だけに聞こえて、彼は苦笑しながらも新たに獲得した大崎領の統治に思考を巡らせるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
相馬家本拠地 小高城
相馬盛胤
「南部馬を見たことがあるか‼︎ あのしなやかな筋肉‼︎ 馬体の伸び‼︎ どれをとっても素晴らしい‼︎」
「は、はあ……」
相馬家の当主、相馬盛胤は木で出来た馬の模型に跨り、家臣の一人に馬の素晴らしさを語っていた。
馬の上で謎の動きをしながら体を震わせる主君を見て、領民達には見せられないなと、こっそりとため息をつく。
「南部馬が攻めて来たのだ‼︎ 南部馬が沢山見られるぞ‼︎ ほわあああぁぁぁぁ‼︎‼︎」
「攻めて来たのは南部馬ではなく南部軍です、盛胤様」
「筋肉が、艶のある毛が、揺れるたてがみと、ぽにいているが、私を呼んでいる‼︎」
「ちょっとホントに落ち着いて下さい。南部家に味方して伊達家と戦うということで良いのですか?」
「……? 伊達家に味方するつもりだが?」
「はあ……、馬が見たいんだったら、南部家に付いた方がよろしいのでは?」
「近くから見るのも良いが、こちらを殺すために迫り来る馬が、またオツなものなのだ‼︎」
「……それでいつも勝ってしまうのだから、我々家臣は不思議でなりません。まあ、ここまで来たら最後までお伴しますよ……」
「まあ戦う理由なら他にもあるがな」
「?」
盛胤は一転して鋭い顔付きになると、軽やかな身のこなしで木馬からさっと降りる。
「南部には大義名分も正当性もあるが、正義が無い‼︎ 相馬家は世のため人のため、そして正義のために戦うのだ‼︎ 出陣じゃああああぁぁぁぁ‼︎」
相馬盛胤はそう叫ぶと、呆然とする家臣を尻目に馬並みの速さでどこかへ駆け出して行った。
正義の味方とは、いつの時代も得てして変人である。
彼はこの後、領土を差し出したら馬をやるから味方に付けという悪の親玉、南部晴政の誘いに、本気で悩み悶え苦しむことになる。
どうしてこうなった?
相馬家に連なる方々、こんな変態みたいに書いてしまって申し訳ない。この作品はフィクションです。
ちなみにこの時期なら本当は相馬顕胤が当主ですが、もう70歳を超えていて、動かしにくそうだったので、少し時期をずらして盛胤が相馬家の当主ということにさせてもらっています。
私のツイッターこと、活動報告もちょびちょび書いてます。
よろしければそちらもよろしくお願いします。




