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僕の日常

新作です。


 僕の生まれた街は箱庭だった。少なくとも、僕にとっては違えようもなく。そして僕以外の多くの住民とっても日々平凡な、生活というルーチンワークを繰り返すだけの代わり映えのない閉じた世界でしかなかった。

 砂の海に浮かぶ箱庭、半径2kmの、決して大きくはない環状都市、それこそが僕の住む都市であり、生まれた時から定められた仕事タスクをこなす僕にとっての世界の全てだ。その地下には上部の都市とほぼ同じ規模の半球状構造体が形成されている。

 環状都市の下部構造体の外殻を形作る無数の隔壁の表面には多数の高周波振動機構が備えられ、有事の際には上部にある環状都市を巨大な天蓋で覆い隠し、振動機構を用いて環状都市の下部構造体が接する黒砂を流体化、都市そのものを砂中に沈み込ませ、脅威をやり過ごすらしい。

 僕達の住む惑星は地表の約六割が砂の海に覆われている。残りの四割は海と呼ばれるのもおこがましい僅かな面積の水溜まりと岩石が剥き出しになった峻険な山脈地帯がそびえるだけだ。つまるところ、辛うじて人類の生存が可能な環境であるに過ぎない。

 遥か昔、僕達の祖先がなにを考えてこの地に入植したのかは今となっては推測する事しかできないけども、大方、極刑を下されるような凶悪犯の類や政治犯などの曰く付きの人々を放り込む流刑地だったんじゃないだろうか。余程の物好き以外には、望んで入植するにはこの惑星の環境は過酷すぎるな。



       ※



 環状都市外周部の下方、そこからさらに地下へと向かうように設けられた直径約一〇mの円形隔壁扉(ハッチ)がゆっくりと上下に開放されていく。そこから地上の環状都市地下部にまで続く斜めに穿たれた円筒の金属通路を、滑走し落ちて行く剣状の衝角を生やした全長約二〇mの金属製の卵の内側に僕は身を横たえていた。

 円筒の直径より一周り小さなこの金属製の卵は、通称小型潜砂艦(デューンストーク)と呼ばれるこの砂礫世界特有の機動兵器だ。卵の尖っている側を前方として、そこに備える高密度に圧縮成形された分子機械ナノマシン剣状衝角(ブレードラム)を高周波振動させ、砂自体の重さにより高密度に圧縮され硬化した地中の砂礫を流体化し砂中を高速潜行する。

 円筒に送り込まれた卵型の装甲に、高速砂中潜行時、艦体外部で発生する静電気や強磁場から艦を保護する為のジェル状磁性流体塗料が吹き付けられ、円筒内部に強磁界が発生、卵型の潜砂艦が砂中に向かって電磁加速され撃ち出された。

 艦体が加速を開始すると、ほぼ同時に艦前方に突き出した剣状衝角ブレードラムが高周波振動を開始、急速に迫る鋼鉄よりも硬く締まった岩盤じみた砂の壁に衝角の切っ先が触れるや、まるで熱したナイフの刃をバターに入れるように容易く突き刺さり、艦体そのものが振動波により流体化した砂中へと突入していく。

 僕を乗せた小型潜砂艦(デューンストーク)の艦体が砂中に突入するのと同時、艦体後部の卵殻が割れ、割れた殻その物が変形してXの形に展開、流体化した砂礫から推力を発生させる流体制御翼(FCフィン)として機能を開始し、僕の乗る小型潜砂艦デューンストークは砂中を高速で泳ぎ始めた。

 僕の乗るこの艦に続いて四艇の同型の小型潜砂艦(デューンストーク)が環状都市から撃ち出され、編隊を組むべく僕の後を追いかけて来る。

 直接的な映像情報は無く、全ての情報は艦の備えるソナーシステムや複合型センサー、レーダー波が伝えてくるものしかなく、この艦内で得られる情報はどうしても間接的なもののみに限定的されていた。

 僕等が戦う相手は詰まるところ僕等と同じ人間だ。今回の作戦目標はこちらの都市を狙って迫ってくる何処とも知れぬ敵対都市から送り込まれた小型潜砂艦(デューンストーク)八艇の排除、僕等僚艦五艇は与えられた任務を全うするべく砂中を進む。

 小型潜砂艦(デューンストーク)は高速砂中潜行を可能とするものの、砂中での戦闘性能は御世辞にも高いとはいえないものだ。機関砲や噴進弾ミサイルなどの投射兵装は搭載していても、砂中では艦体を包むぶ厚い砂の壁に遮られ、その威力は敵対艦ではなく自艦を破壊することにしか効果が発揮されない。自然、小型潜砂艦(デューンストーク)同士の砂中戦闘は艦前方に備えた頑丈な剣状衝角ブレードラムを用いた格闘戦、高速潜行を維持したままでの斬り合い、命懸けのチキンレースとなる。

 とはいえ、前に述べたように直観的に状況を把握できる詳細な映像情報なんてものは無いので、艦の索敵機能に全幅の信頼を寄せた上で、さらには大雑把な自身の感覚を以て、敵の行動を先読みしアタリをつけて自艦の進行経路を構築するしか出来ることはない。

 僕は敵対艦の中から先行し突出し始めた一艇の小型潜砂艦(デューンストーク)に的を絞り、僚艦四艇を置き去りに、流体制御翼(FCフィン)を最高率可動させ最大戦速で推測した敵艦の進行経路にへと割り込みをかける。

 小型潜砂艦(デューンストーク)はその航行機構上、蛇行や急旋回が苦手だ。剣状衝角ブレードラムで進行経路上の砂を流体化する事が小型潜砂艦(デューンストーク)の高速機動の前提となるのでこれはもうどうしようもない。

 相手の推測進路上から斬撃範囲を読み取り、こちらの攻撃は通るが、敵対艦の攻撃が外れるよう位置取れる事がベスト、しかし、最大戦速での砂中潜行は消費エネルギーの過大さから艦の動力機関を著しく疲弊させてしまう為、極短時間しか使用できないという時間制限がある。つまるとこ、今の僕の艦が最大戦速も維持できるのはあと数秒といったところで、その僅かな間に自艦の進行航路の詳細な設定と、同時に自分の生が終わる覚悟を決めた。

 こりゃマズいかな? と、僕が思ったその刹那、自艦の剣状衝角ブレードラムが砂でない硬いモノに触れた感触が返り、小型潜砂艦(デューンストーク)の艦体そのものが外部で起きた衝撃に大きく揺れる。こちらの狙い通り、剣状衝角ブレードラムが先頭に突出していた敵艦を斬り裂き砕いた事がレーダーの敵艦反応の減少から見て取れた。

 だが、最大戦速での戦闘を行った代償にこちらの艦も動力機関がオーバーヒート寸前、航行速度は急速に低下していく。自艦のセンサーが捉えている敵艦の反応を確認すると、残る七艇の敵艦全てが僚艦から突出して孤立し、著しく速力を落とした僕の艦へと狙いを絞ったらしく、敵艦を示す七本の予測航路が全て、僕の艦の進行ルートに重なっていた。僕は慌てずに操舵輪を手前に引き艦の船首を上げ、砂上を目指し自艦の浮上を選択する。



       ※



 平面上での僕の艦の航路に重なって、功を焦った敵艦四艇が紙一重に僕の艦の真下を通り過ぎ、自艦の直下を敵艦の発した振動を艦のセンサーが捉えた。目を焼く赤色灯の光と共に、僕が身を預ける操舵席に警告音がけたたましく鳴り響く。

 僕は小型潜砂艦(デューンストーク)を出来る限り加速させた。オーバーヒート寸前の動力機関が悲鳴を上げる中で、それでも艦は僅かに速度を上げ、そのまま地上へと砂を巻き上げながら飛び出しいく。

 灼熱に灼ける砂漠の上に飛び出した小型潜砂艦(デューンストーク)は、僕の操舵席での操作を受けてその卵殻を幾つもの無数のパーツに分割し、一部は幾重にも折り畳まれ、また一部は重なり合うように格納され、後方に展開していた流体制御翼(FCフィン)をも巻き込んで変形し外套のように後方へと翻した。同時、卵殻の内部で複雑に折り畳まれていた四肢を延伸展開させ、熱砂の上にその両足を着けると、小型潜砂艦デューンストーク形態では剣状衝角ブレードラムであった大型銃剣バイアネットを固定されていた胸部中央の動力機関から右手に掴み、筐体のみを外し取って構えた。大型銃剣バイアネットの銃尻からは機体腰部右側へと繋がる導力管チューブが引き出され弛んだままぶら下がっている。操舵席にも変化が起き、掴んでいた操舵輪が左右に分割されグリップレバーに、仰向けに身体を横たえる姿勢を取らせていたシートは操舵席の空間ごと遡上され、立ち上がった姿勢で身体が固定された。

 小型潜砂艦(デューンストーク)を全高一六mの人型戦闘形態、通称砂界機装(デューンクローク)へと変形させると共に、卵殻から解放された事で動力機関が強制冷却を開始、高熱により蒸発した冷却剤が、機体装甲各部の放出口から勢い良く外部へと吐き出され、下腿部外側に接続された卵殻底部の一部でもあるホバーボードが両(かかと)の後方へ移動、固定され機能を開始、砂上を滑るように走り出した。

 僕の艦からわずかに遅れ、砂塵を巻き上げながら砂上に姿を現した三艇の敵艦へと、両腕に構えた大型銃剣バイアネットから牽制の弾丸を放つ。

 巻き上がる砂塵の渦の中心への着弾と同時、砂上を滑り敵艦へと接近した僕の砂界機装(デューンクローク)大型銃剣バイアネットを振り上げると近場に在る敵艦へと高周波振動する肉厚の刃を一閃した。

 剣閃を見舞われた敵艦は、小型潜砂艦デューンストークの外殻諸共に機体の一部を打ち砕かれながらも砂界機装デューンクロークへと変形、破損した右腕を強制排除し残る左腕で大型銃剣バイアネットを掴み取り、後方へと飛び退いてこちらの追撃を避ける。

 僕の砂界機装デューンクロークの動力機関が唸りを上げ、手にした大型銃剣バイアネットの刃が赤熱化し、構成素材である高密度分子機械(ナノマシン)同士が結合を緩めると攻撃的なエネルギー力場を纏った。僕の操作に機体は更に一歩を深く踏み込み、切っ先から放出され本来の刃に倍する長さと化した光刃が鞭のようにしなやかにしなりながら、対峙する敵機が受け止めようと翳した大型銃剣バイアネットごと、解き放たれた光熱刃は人型の機体に絡み付くようにその胴体を真二つに切り裂いた。

 二分された敵機が崩れ落ちる間すら待たず、僕は次の敵機へと機体を接近させる。気が付けば何時の間にか砂中にあるはずの僚艦の反応が一艇のみに減じていた。砂中の敵艦の反応も二艇に減じているが、味方の一艇は地上で戦闘を繰り広げている僕の機体に合流するべく僚艦の反応が近付いてきている。

 地上の敵機は二体、僕が先ほどの一体を斬っている間に態勢を整え終えていたか、人型の戦闘形態をとり、それぞれに手にした大型銃剣バイアネットを構えこちらへとその銃口を向けていた。

 僕はとっさに左右腰部装甲に格納されていた総数八の小型誘導弾マイクロミサイル全弾を自機の周囲の砂地に向けて発射、わざと砂煙を巻き上げ、煙幕代わりに利用、機体の位置を変えることなく弾丸に備えて機体の左半身を前する。

 砂煙を引き裂いて弾丸が機体に迫るが、正確な二条の射線は一つが僕の機体を掠めたものの、残る一つは半身を開かせた機体のすぐ脇を通り過ぎていった。機体の損傷は軽微、大型銃剣バイアネットに再度エネルギーを充填して弾丸を放ち、砂煙を突き破って飛び出した僕の機体は砂上を滑り、二機の敵機間を駆け抜けながら光熱刃を突き出し、機体を旋回させながら振り抜いた。同時に度重なった最大駆動にとうとう動力機関が限界を迎え、生命維持システムを維持する為の非常用予備バッテリーに切り替わる。動力機関用の強制冷却剤は環状都市では希少な為、一度の出撃に一艦につき一度分しか搭載が許されていない以上、それは同時に僕の機体が全ての戦闘能力を失った事も意味していた。

 一体は破壊できたが、残るもう一体は右腕部を破損させるに留まり、敵機は右腕と共に砂上に落とした大型銃剣バイアネットを破損を免れた左腕で掴み取るとゆっくりと僕の機体に近付いて銃口を突き付ける。しかし、僕の攻撃の成果か、取り落とした際に敵機の大型銃剣バイアネットは導力管が破損していたようでその銃口は弾丸を吐き出すことが出来ず、じれた様子で刃を突き立てようと振り上げた。

お読みいただきありがとうございます

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