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何でも屋と魔法の守護者  作者: 無知
第一章
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第1話【初談事】3

 「今回もいつもどおり、深夜の討伐だ」

 クレイが話を続ける。

 「じゃあ、今のうちに寝とかないといけないですね!」

 「真剣に聞けよ、ティハ」

 「分かってますって!私もここで働き出して長いんですから!」

 二人の会話を横で聞いていると、クレイと目が合った。

 「で、今回はカリンも来てもらうからね」

 「え!?私もですか?」

 予想はしていたが、驚いてつい自分の方に指を差して言ってしまう。

 「うん。うちの店番をやってもらう以上、経験を積んでもらわないとね。目に見えないゴーストが見えるようになるためには、魔力でゴーストを探知することが必要になる。だから、実際に戦って奴らの独特の魔力、雰囲気を感じ取れるようにならないとね。それに君、実戦はやったことないでしょ?」

 「はい……」

 「防御専門だしね!」

 ティハが軽口を叩く。

 「やかましいわ!」

 思わず怒り気味にツッコんでしまう。

 クレイが片目を瞑りつつ、なだめる。

 「いやいや、それでもいいんだよ。実際に攻撃しなくても、ゴーストと相対することで、気配を感じられるようになってくるよ。むしろ、僕達は攻撃ばっかりで防御のことなんて全然考えてないから、補助役もいる方が助かるしね」

 「確かに。私が行くとしょっちゅう怪我して帰ってきますからね」

 ミルが真顔で言うと、ティハが笑いながらまたも軽口。

 「私は平気だよ~ん!」

 「お前の場合はほとんど店主任せで、あまり戦ってないからだろ……」

 「そんなことないよ!もう!」

 ティハが頬を膨らませる。

 「ともかく、今回行くのは、僕とカリン。それからミルとティハのどちらか片方だね。もう片方は店番で」

 カリンは困惑しながら三人を見比べていた。

 ティハが手を挙げて、クレイに向かって質問する。

 「あの~、毎回思うんですけど、店番とか置いておかないで、全員で討伐に行ったらいいんじゃないですか?」

 「屋図路夜のモットーは『年中無休』だからね。そこは譲れないよ」

 「でも~、店番一人のときに談事の相談があったらどうするんですか?」

 「今までで、そんなことあった?」

 「いやまあ、なかったですけど」

 「万が一そういうことがあったら、店番が談事を解決したらいいんじゃない?」

 「えええ~~!!!」

 「冗談だよ。じゃあ、ミルとティハ、どっちが今回討伐に行く?」

 クレイが二人を交互に見た。ミルとティハは顔を見合わせ、どうする?と目で会話しているようだった。

 「じゃあ、私が行くよ!」

 まるで遠足にでも行くかのような声色でティハが言った。

 「分かった。じゃ、早速準備にかかろう」

 「お~~~~!!」

 ティハが拳を突き上げる。カリンはそれを黙って見ていた。


 その夜、カリン達は、薬草などの回復道具を店内の商品から調達する。

 カリンは、自室から杖を持ってきた。アカデミーの卒業者に餞別として渡されたものだ。

 魔法を使うには、自らの体内に存在する魔力を、剣や杖などの武器を介して出力する方法が一般的である。

 彼女の持つ杖は当然、魔力の媒体とすることが可能で、杖の上に付いている紫水晶から魔法を発する。

 今までは実技の授業でしか呪文を詠唱したことがない。

 彼女は、杖を握る手が汗ばんでいるのに気づいていた。

 一方、クレイは彼の部屋に置いていた剣を腰に据えている。

 剣は基本的に強靭で重い金属で製造されているため、魔力の媒体にならないものが多い。しかし彼の剣は、比較的細身の長剣で、見たところ魔力の媒体としても使えそうだ。カリンはそのように評価した。

 ティハは、一見すると武器を持っているようには見えない。

 が、彼女の左足に短い槍状のものをベルトで固定しているのが見えた。あまり見たことのない武器だったが、それも魔力の媒体となるのだろうか。クレイの剣と違って、カリンには判別できなかった。

 「準備完了~!」

 ティハが元気良く言う。

 「よし、じゃあ行こうか」

 「お気をつけて」

 ミルが見送る中、三人は店を離れ、依頼された町長のいる北東の町へ乗り込んだ。


 カリンが町で見た光景。

 誰一人として、外を出歩いている者はいない。

 深夜であるし、村人全員が睡眠薬によって眠っているから、当然といえば当然である。だが、討伐に行くという覚悟を持って町に来たカリンにとっては違和感があった。

 「これから、どうするんですか?」

 彼女はクレイに尋ねる。

 「あちこちの民家に回って、病気の元凶となっているゴーストを見つけ出すんだ。つまり、最初にかかった子供の家を探す。……っ!」

 クレイの表情が引き締まった。

 「ど、どうしたんですか?」

 「どうやら、危険を察して出てきたみたいだ」

 「え?」

 「……ゴーストだ。よし、行くよ!」

 「え、ちょ、ちょっと……!」

 カリンが詳しく聞く前に、クレイは足早に前に進む。ティハがすぐ後ろを付いていく。

 慌てて追いかけるが、突然、二人が立ち止まった。

 「こ、今度はなんですか?」

 「カリン、集中して前を見てごらん」

 前を見る。闇が広がっているだけだ。

 「見える?」

 「いえ、何も……」

 先ほどと変わりない、暗黒の中。二人の気配がするのが分かるくらいだ。

 クレイは剣を抜き、魔力を剣に集中させる。集中させた魔力を小さな光に変換させ、切っ先から眼前の空間に放った。

 すると、光が何かに当たる。目の前に影が現れた。その影ははっきりとした輪郭を映し出していた。

 そして。闇の中で、その姿がはっきりと確認できた。

 化け物。

 「な、な、何ですかこれ!?」

 「これがゴーストだ」

 絶句するカリン。

 「相変わらず気持ち悪いですね!」

 ティハは軽口を叩きながらも、目は笑っていない。いつの間にか左足の短槍を抜いていた。

 ゴーストはカリンに向かって突撃してくる。

 クレイは、剣をカリンの目の前に振り落とした。

 剣は何かに当たったような音がした。斬撃。

 魔物が倒れる。カリンの足元に、それが転がった。

 「……っ!!」

 「危なかったね」

 「これが、ゴースト……」

 ゴーストは、巨大なじゃがいもから芽の生えたような姿の化け物だった。

 これが、住民に取り付き、謎の病となっていたのだ。

 クレイに倒されたゴーストは、間もなく消滅した。

 「住民のほとんどがゴーストにかかってる。用心して進もう」

 「カリン、大丈夫?」

 ティハの声に軽く頷くが、カリンの心中に恐怖が支配しつつあった。

 クレイたちは民家の一軒一軒を窓から覗いて確認する。

 基本的には体力と魔力を温存するため戦うことは避けている一行だが、ゴーストが襲いかかってくる時は応戦した。

 クレイが敵の攻撃を躱しつつ、素早く剣を振る。

 ティハは瞬時に敵との間合いを詰め、飛び掛かりながら短槍を刺突し、その後すぐ離脱するヒット・アンド・アウェイ戦法で応戦する。

 二人の戦闘方法を確認しながら、カリンは防御魔法を唱えようとする。

 だが、その暇もなく二人があっという間にゴーストを倒してしまっていた。

 敵に襲われる感覚が、カリンにはまだ慣れなかった。杖を持つ手の震えがなかなか収まらない。

 そして、町の奥にある、最初に病魔に冒された子供のいる家に到着した。

 この町の中では一番大きな家だ。玄関の扉にまで精緻な装飾が施されている。

 扉を開け、中に入っていく。天井が高く、左右に通路が伸びている。

 クレイが右手の通路を躊躇いなく進んでいく。

 その一番奥にあった扉を開けた。

 「おいしい……」という声が中から聞こえる。カリンは寒気がした。

 クレイがそっと中を覗くと、壺状で単眼の魔物が子供の頭の上に浮かび、底の部分から触手が伸びているのが見えた。

 触手は子供の身体につながっていて、そこから栄養を補給しているようだった。

 「こいつか……皆、行くよ!」

 囁くように言うと、クレイは中に入っていった。


  【戦 闘 開 始】


 クレイとティハは攻撃態勢に入る。

 クレイが先陣を切り、剣で攻撃する。

 まずは触手を断ち切っていく。

 すかさずゴーストが反撃しようとするが、クレイはそれを躱す。

 彼が躱したと同時に、ティハがゴーストへ飛び掛かる。腰に据えていた短槍を抜き、ゴーストの目に三連続の刺突。

 急所だったらしく、ゴーストが悶える。

 クレイとティハの二人は交互に攻撃を加える。触手は完全に子供から分離された。が、大将格らしき敵もしぶとい。

 カリンは後方で立ち尽くしていたが、ふと我に返る。

 (私は、私のできることを……!) 

 そう考え、杖に魔力を注ぎ、防御魔法を唱える。対象者の表面に薄い魔力の膜を張る、初歩的かつ基本的な防御魔法だ。

 それでも、久々の呪文の詠唱、初めての実戦。

 詠唱が完了し、魔法の発動に成功すると、彼女はやっと安堵した。

 (本当は違法なんだけどなあ……)

 ふとカリンの脳裏にそんな考えがよぎったが、再度戦闘に集中する。

 引き続き同種の防御魔法を詠唱。効果は一時的なものであるため、前衛の二人に繰り返し魔法をかける。一度成功すると、それ以降は、詠唱から発動までのタイムラグが短くなってきた。気づけば手の震えも収まっていた。

 弱りきったゴーストが渾身の力で突進してきた。その衝撃でティハが後方に飛ばされる。しかし、防御魔法の効果で彼女は無傷だった。カリンに笑顔を向けて手を上げる。

 「とどめ!」

 クレイとティハ、二人の声が揃う。

 ティハが壁を蹴って跳躍し、真上から槍を突き刺す。ゴーストが地面にたたきつけられる。

 再び浮かび上がろうとするゴーストをクレイが一刀両断し、消滅した。元凶を根絶したと同時に、町中のゴーストが完全に消え去った。


 彼らは、そっと子供の家を出る。

 誰にともなくクレイがつぶやく。

 「談事、成立」


 【戦 闘 終 了】


 翌日。町長が大金を持って、屋図路夜に訪れた。

 「おかげで町は救われました。本当にありがとうございます。なんと言っていいのか……」

 「いえいえ、これが私どもの仕事ですから」

 クレイが澄ました顔で言う。

 「これが代金となります」

 「毎度。……あれ?四百万と言ったはずですが、多くないですか?」

 「それが、住民からの感謝の気持ちということで、町の皆さんから謝礼金として集まったものです。是非受け取ってください」

 「そうですか。それではありがたく頂きましょう」

 「本当に、ありがとうございました」

 「今後とも、私ども屋図路夜をご贔屓に」

 依頼人の町長は、安堵の表情で帰っていった。


 店員三人と店主クレイが広間に集まって、今回の談事について話をしている。

 「いっぱい儲けましたね、店主!」

 「こら、不謹慎だぞ、ティハ」

 ミルが窘める。

 「いいじゃないですか!もう終わったんだし!」

 「まあね。これがないと、僕たちも生きていけないからね」

 クレイもどこか機嫌が良さそうだった。静かに笑顔を浮かべている。

 三人が話している中、カリンは茫然としていた。何とも言えない疲労感が彼女の全身を巡っている。ティハが少し不安そうな顔で、彼女の表情を覗き込む。

 「カリン、大丈夫?びっくりした?」

 「これが本来の談事。君のようなケースの方が特殊だったんだよ」

 クレイがカリンに向かって言う。

 「私も最初にあいつらを見たときは超びっくりしました~」

 「私もだよ。あんなの、見たことも無かったから」

 ミルもティハの意見に同調する。

 「ゴーストを直に見ることなんて、めったにないからね。まあ、だんだん慣れていってくれ」

 「はい……」

 三人が励ますが、カリンは上の空で返事をしていた。

 彼女にとっての初めての談事、ゴースト討伐が終わった。一通りの仕事が終わって安堵すると共に、言い表せない衝撃を感じていた。

 彼女が何よりもショックを受けたのは、ゴーストの存在を認めるだけではなく、この屋図路夜というよろず屋の真の姿に、直に触れたことだった。

 普段和やかなこの三人が、談事となると目の色を変える。

 店主クレイだけでなく、少女のように小柄なティハでさえ、戦う術を持っている。

 今回の相手が「割と弱い奴」だとクレイは言った。

 より強力で強大な敵がいるということだ。

 もしも自分以外が倒れたときは、どうしたらいい?攻撃手段を持たない自分にとって、それは最悪の展開なのだ。それがかつての就職活動の成果に結びつかなかった最大の原因でもある。誰よりも自分がそのことを分かっていた。実際の戦闘を経験して、そのような不安がカリンを襲う。

 ただ、同時に、自身の能力が最大限に発揮できる舞台でもあるということも、確かな手応えとして実感していた。

 彼らを守れる術を持っているのは、自分だけなのだから。

 「カ~リ~ン!悩んでてもしょうがないよ!」

 ティハが後ろからカリンの両肩を叩く。カリンは不意打ちに面食らって振り向く。

 「な、何で分かったの?」

 「ティハは人の心が読めるからね」

 ミルが思いもよらぬことを口走り、さらにびっくりする。

 「ええ!?そうなの!?」

 「いやあ、それほどでも♪」

 「いや、嘘だよ」

 二人がほぼ同時に真逆の事を言う。

 「どっちよ!」

 「いやだな~!私にそんな能力あるわけ無いじゃん!」

 「カリンの顔に書いてあるからね。私でも分かる」

 「もう!!」

 からかわれていることを自覚し、ついふてくされてしまう。それを見た二人はほっとしたように笑う。

 「ほら、その調子その調子!」

 「まあ、常に動じない心を持つことだね。でないと、この屋図路夜でやっていけない」

 「頑張ろうね!」

 「……うん!」

 「主に店番をね」

 心のつっかえが取れたような気がする、とカリンは思った。

 店番三人が広間で賑やかにしている間に、クレイは彼女達に背を向け、二階へ上がっていった。

 そうして、翌日からも緩慢な一日が過ぎていく。

 店番をするだけの平和な日常が帰ってくる。

 もしも、次にゴーストと相対することになったそのときは。

 (私は、私のできることをするだけ。)

 カリンはそうシンプルに思い直すことにした。


 屋図路夜に次の談事の依頼が入ってきたのは、それから一月後のことだった。

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