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何でも屋と魔法の守護者  作者: 無知
第一章
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第1話【初談事】1

 「いらっしゃいませー!」

 扉を開けた途端、いきなり、そんな声が聞こえてきた。

 「……何、ここ?」

 カリンはぽかんと口を開けている。

 家の中を見渡した。散らかっている。そんな印象を覚える光景。

 広間らしき四角い空間のありとあらゆる机や棚の上に、様々な物が無造作に置かれている。

 その物も統一性がない。どうやら雑貨店のような店で、商品が陳列されているようだが、その有り様はむしろ倉庫に近いように感じた。

 そして、彼女の目の前に2人の人間。若い男女だった。

 男は何故か甲冑を身にまとい、頭に冑まで被っている。女は何故か赤い民族衣装、チャイナドレスと呼ばれる服装だった。

 2人が揃って口上を述べる。

 「何を隠そう、この場所は!!」

 「知る人ぞ知る、穴場の穴場!!」

 「何でも揃う、何でも叶う、よろず屋『屋図路夜やずろよ』!!」

 「以後、お見知りおきを!!」

 見事に、2人の声と動きがシンクロし、華麗に舞い踊っている。

 「……あ、そう」

 呆気にとられながら、というか完全に呆れながらカリンは小芝居を眺める。

 この店の店員らしき2人、年齢はカリンとほぼ同じくらいに見えた。男はやや迷惑そうな顔で女に合わせて踊っていた。

 挨拶代わりの舞踊が終わり、つかの間沈黙。先ほどとはうってかわって直立不動している2人。

 甲冑の男がチャイナドレスの女の方を向き、疲れた顔で話しかける。

 「ほら、やっぱり効果ないよ、今のじゃ」

 「えええ~!せっかくいい宣伝方法だと思ったのに~!」

 「店の中でやっても意味ないだろ」

 カリンは、そのやり取りを白い目で見ていた。

 甲冑の男が、ふとそこに客がいたことを思い出したかのように、営業モードの顔でカリンに話しかける。

 「失礼しました、お客さん。こんな夜更けに御用ですかな?」

 「いえ、たまたま雨宿りをしようと入っただけで。……ていうか、まだ夕暮れ時だし」

 「そうですか。しかしこれもきっと何かの縁。貴方の願い、何でもこの屋図路夜が叶えましょう!」

 話を聞いているのかいないのか、胸を張って勢いよく言う彼に、少し温度差を感じる。

 困惑しながらも用件を伝えるカリン。

 「え、えーと……雨宿りさせてもらうだけで十分です」

 「おや、何かお困りのことがあるようで!」

 「いや人の話を聞けよ!」

 「聞いてるじゃないですか」

 そこにチャイナドレスの女が割り込んできた。

 「ここには食べ物や書籍、武器から防具まで何でも揃ってますよ~!」

 「だから結構ですって。大体、私の悩みなんて……道具の一つ二つで解決したらどれほど楽なことか」

 「ほう、つまり談事だんじですか」

 男が再び話し出す。カリンは思わず聞き慣れない言葉を聞き返す。

 「だ、談事?」

 「要するに、モノでは解決できない依頼に対して、策を編み出して解決する案件のことです。ここではそれを『談事』って呼んでるんですよ」

 「何でも相談に乗りますよ!」

 カリンは窓の外をちらりと見る。まだ雨足は強い。今日中に止む気配はない。時間潰しには有り余る。雨宿りを兼ねて、彼らと話をするのも悪くはない。カリンはそう思った。

 「そ、そう?じゃあ、話だけでも……」

 「その意気です!雨は酷いし、夜は長い!じっくりとお話を聞きましょう!」

 チャイナドレスの女が満面の笑みで飛び跳ねながら言う。彼女の頭に長い黒髪を結ってできた2つの丸い団子状の部分が弾む。

 「テンション高いわね……」

 カリンはため息をつきながら2人の変わった店員達に、これまでの悩み、つまり就職活動の不出来について話し始めた。


 独白終了。2人の顔をそっと伺うカリン。

 甲冑の男が至極真面目そうな顔で口を開いた。

 「あ、申し遅れました、私、屋図路夜店番1号のミルと申します」

 自己紹介かよ、と思わずツッコむカリン。

 「私は、屋図路夜店番2号のティハっていいます~!よろしくです!」

 チャイナドレスの女もミルに合わせて自己紹介した。

 「よ、よろしくね。私はカリン。さっきも言ったけど、防御魔法専門の就職浪人ですよ」

 戸惑いと自虐を含めて、カリンも合わせる。思わず自嘲してしまう。

 ミルが話を戻した。

 「しかし、2年もニートやってたんですか」

 「ニートじゃないわよ!ちゃんと働く気はあるから!」

 「まあまあ。要するに、働き所がないと」

 「う、うん……。でも、今まで散々な結果で……私のような人間なんて、どこも必要ないみたい……」

 自分で口に出してしょんぼりするカリンに、少女のような背丈のティハが笑顔で声をかける。

 「そっか。じゃあ、その悩み、解決させたげる!」

 「確かに。何とかなりそうだね」

 ミルも微笑んでいる。何とかなるとはこれ如何に。

 「え、どうやって?そもそもよろず屋って、色々な道具を置いてるだけのお店じゃないの?」

 ティハが片目を瞑りながら人差し指を立て、左右に振る。

 「チッチッチ。それはただの道具屋です。この『屋図路夜』は、お客様のすべてのニーズに応えられる、夢のようなよろず屋なのです!」

 「まあ、何でも屋と考えてもらっても構いませんよ。ただし、料金はもちろん取りますが。その悩みを解決する手数に応じた代金をね」

 ミルが説明口調で言う。

 カリンは、駄目で元々、と頷いた。

 「そう……。じゃあ、お願いしてもいいかしら?私の就職先を見つけてくれる?」

 「もちろん!!」

 カリンの思いに反し、2人は力強くそう言った。彼らの緩んだ表情につられて彼女も少し微笑む。

 が。ミルが真顔で言う。

 「ただ、道具以外の商売は僕たちの管轄じゃないんです」

 「え!?」

 「談事は店主が請け負ってるんで」

 ずっこけそうになるカリン。

 「今の言葉は何だったのよ!?……そういえば、店主さんは、どこにいるの?」

 「上の階の自室にこもってます。ティハ、呼んできてくれ」

 「了解~!」

 ティハは右手の指を伸ばし、額に付ける。その後すぐ、部屋の奥の階段を駆け上がって、大きな声を出した。

 「店主~~!!お客さんです~~!!談事だそうです~~!!」


 ほどなく、その店主は現れた。

 思っていたよりも、ずいぶん若い。カリンや従業員である若者2人よりも少し年上、あるいは同年代かもしれなかった。店主と呼ばれた男は、カリンの抱いていたイメージと異なり、中性的な顔立ちをしていた。茶色に近い黄色の長髪に、緑色の瞳。前髪をカチューシャのような髪留めで上げている。優しい目つきで、店主は口を開く。

 「こんばんは。店主のクレイといいます。よろしく」

 「あの、わ、私はカリンといいます。え、えっと……」

 「談事を依頼したいとか」

 「は、はい。私の就職先の斡旋について、お願いをしたいのですが……」

 先ほどと同じ話をしようとすると、横から店員達が口を挟んだ。

 「2年間ニートだったらしいですよ~!」

 「200社以上落ちたとか」

 「ほう」

 「いちいち掘り返すな!しつこいわねあんたら!」

 そのやりとりを聞いた店主クレイは、微笑みながら答えた。

 「お安い御用ですよ」

 カリンは驚いてクレイの方を向く。

 「そ、そうなんですか。それで、えーと、代金の方は……?」

 「今回に関しては要りません。無料で就職先を斡旋しますよ。ただし」

 そこでクレイは一旦言葉を切った。

 「うちで談事を頼んだとき、貴方はもうそれまでの人生に戻れなくなります。これは、どの依頼人にも言っていることですがね。普通のよろず屋とはそこが違う。談事が解決した後に起きる事については一切保証しません。それは覚悟してください。……よろしいですか?」

 微笑みながらも力強い目つきでクレイに睨まれ、カリンは一瞬ためらった。

 しかし。

 今までの人生など、戻るほどの価値はない。この2年間、ひたすら職を捜し求めて腕を磨きながら世界を巡り続けた。自分の居場所さえあれば、それでいい。彼女は無意識に右手の拳を握る。

 「はい、出来てます。どんなところでも良い。自分の力を仕事に生かせるのなら。…お願いします!」

 クレイは、満足そうにうなずいた。

 「分かりました。それでは、談事、成立!」

 その次に言った彼の一言は、彼女を凍りつかせた。

 「じゃあ、貴方は今日から、うちの店員として雇います」


 彼女は、よろず屋・屋図路夜の一員となった。

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