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笑い袋

作者: Chiaki




 その袋は若い女の笑い声を発した。

 原理はよくわからない。一見すると何の変哲もないただの麻袋だが、なぜかそのくすんだ茶色い袋は笑い声を口の所から出すのだ。

 何が入っているのだろう。少し膨らんだそいつの中を覗き込むが中は真っ暗になっていて、直視していると地に足がついていないような不安定な感覚を僕にもたらした。


 袋の中から発せられる女の声は聞き覚えのあるものである。それは僕が通う高校のクラスメイトである田中さんの声だった。田中さんはいつも引き気味に笑うから特徴的だ。「ひっひっひ」と控えめに笑うのだった。


 笑い声やその仕草にはその人の特徴、人間性のようなものが如実に表れると言うが僕はその田中さんの笑い方がとても好きだ。しかし袋がそれを発するととても奇妙な感覚に捉われる。しかし、それはいつも以上に魅力的な笑い声に聞こえた。


 僕がその袋を手に入れたのは数時間前、今日の放課後の教室だった。弁当箱を忘れたと思い、取りに戻ったらいつの間にか僕の机の上には笑い声を放つそれが置いてあったのだ。


 最初は不気味に思ったものの、恐らく田中さんのものであろう笑い声を聞いている内に何故かその袋を持って帰らなければいけないという衝動に僕は駆られた。口を縛ると袋は笑い声を止めたのでそのまま片手に下校してしまったのだ。


 帰宅後に自室で縛っていた袋の口を開けると、再びそれは「ひっひっひ」と小さいボリュームで控えめに笑った。

 僕はとても愛おしい気持ちになった。それと同時に思った。


 中身は何が入っているんだ?


 持った感覚は軽くて中には何も入っていないように感じる。しかしその袋は不自然にボコボコと膨らんでいるのだ。


 僕は興味本位で右手を袋の中に入れた。


 


 途端に袋に入れた手が熱いものを感じた。

「あつっ!」反射的にそいつから右手を引っこ抜く。


「あれ?」僕は疑問に思う。


 どうして、右手の先がなくなっているんだ?僕は赤い断面が剝き出しになった自分の右手首をまじまじと見た。


「ひっひっひ」袋は笑っている。


 それは田中さんの笑い声ではなくなっていた。まるでカラスの鳴き声のような濁った声だ。


 だんだんとその笑い声は大きくなっていき、明瞭になっていく。

 これは……。


 最後に僕が見たものは袋が何倍もの大きさになって、巨大な口を開き、僕を飲み込もうとするところだった。


 袋の発する笑いは、いつしか僕の声になっていた。



 


 

 

 


 

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