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タイム・ラグナロク  作者: 栞愛
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第2話 「魔力の世界」

 オレンジジュースを一気に飲み干し、カップを持ったまま扉から部屋を出る。


 木で作られた4人かけのテーブル、背もたれのない椅子が部屋の真ん中に置かれ、部屋の東側最奥には今は火の付けられていない暖炉が設けられている。

 他にも今までケイトがいた部屋へ繋がる扉を合わせ扉が6つも存在し、南方にはキッチンらしきものも設けられている。


 広間にミルの姿はなく、ケイトのための作り置きの飯があるというわけでもなかった。


「とりあえず、このカップは流し辺りに置いとけばいいか……ん?」


 テーブルの真横を横切ろうとした時、テーブルに俺の手のひらにも存在する、ラグナロクの証と呼ばれる紋章が刻まれているのに気がつく。


 ─マンガやアニメでよくある何らかの召喚紋章とかか!

 この世界に来て最初のイベント発生!1度死んでるのはイベントじゃない。うん。


 自分の手のひらの紋章を合わせる様にしてテーブルの紋章に手を近づける。

 あと数センチ。すると、紋章から淡い光が放たれ…


「おい、何してるんだ?」


 突然の声に慌てて手を後ろに隠しながら振り返る。

 淡い光は突如として姿を消し、何事も無かったかのように静まり返る。


「いや、別に何も…ぉぉぉ!?!?」


 振り向いた先に立つのはミルなのだが、今回は前とは訳がちがかった。

 腰の辺りまで伸びた黒髪は水に濡れ、だらだらと地面に水がたれ落ちる。

 驚くべきなのはその格好で、バスタオル1枚を身体に巻くのではなく、タオルの端と端とを脇ではさみ、身体の前部分に垂れ下げているという女性にあるまじき格好であることだ。


「なんだ人の事をジロジロと見て。その紋章に手をかけると面倒なことになるから触らないでくれ。」


「いやいやいやいや!その格好おかしいだろ!?これはまだだらしないという領域なのか…?俺これでも男だぞ!?」


 日本人であれば何も珍しくはない少し長めで癖のある髪と黒の瞳。太りすぎているわけでも痩せすぎているわけでもないのだが、そんなに男として見られないほどなのだろうか?


 ─それとも、本当にどうしようもないくらいだらしない……または異性に興味がないと言うことなのだろうか……


「まぁ少し大人しくしていろ。後であたしの剣の1本をやるから適当に椅子に座っていてくれ。」


「その、後ろ向かれると……その……丸見えなんだけど……」




 ─────────────────────────






「お、重すぎる……」


 ミルに渡された剣は数種類に及んだ。

 短剣から大剣まで、様々な剣があり、最初は『長剣の方がカッコいいでしょ!』などと軽いノリで長剣を何度も試しているのだが、見た目に似合わず重さは相当なものだ。


「これのどこが重いんだ?ここにあるのはほぼ全部軽い剣だぞ。」


 見た限り一番重いであろう大剣を、ひょいと片手で簡単に持ちあげてしまう。

 どうやら、この世界の住人の力は、ゆとりゆとりと言われて育ってきたケイトとは比にならないらしい……と決めつけるのは少し早いだろうか。


「とりあえず、この短いのでしばらくは修行という感じで。」


 一番手前に転がっていた短剣をひょいと持ち上げ、ケイトは器用に指先でくるくると短剣を回す。

 特にこれといったことはないのだが、短剣はしっかりと俺の手に馴染んでくれるような気がした。人ならではの直感というものだろう。


「そんで、俺はこれから何すればいいんだ?モンスター狩りとか?悪党狩りとか?」


 定番RPGの最初の戦闘といえば、やはりモンスター狩りや美女を危機に落し入れる悪党の討伐……それから話は発展していき最後は勇者として…


「お前は自分をゲームの主人公か何かだと思っているのか?あぁ、世間でいう厨二病とかいうやつか。」


「おい、それは全力で否定させてもらうぞ……」


 それにしても、この世界に来てから思うことがある。

 それは”俺の前いた世界”と今は表現すべきであろう日本とは異なりがほぼ全く感じられないのだ。

 ミルは日本を知らないというが食料や機器、言語などはほぼ日本のそれである。

 夢ならば話は早いのだが、この世界に来て何度か気を失ってしまったりしても目が覚めずにこの世界にまた入っているなどの可能性は薄い。夢にしてはあまりにも現実性が高すぎる。


 俺は1分ほどの時間を費やし夢の可能性を考えるが結果は夢では無い。のひとつに収まった。

 そもそも、これほど深い考えを夢で持つ可能性もまた低い。

 俺は諦めて手でくるくる回し続けていた短剣を鞘に収め、左腰に掛ける。


 ミルの活動拠点──俺の目覚めた小さなログハウスの外庭。正確には森の中の一角でしかないが、周りを歩き回る人間、野生動物類の姿はひとつも見えなかった。

 上を見上げると立ち並ぶ大きな木々がそよ風に吹かれ、小さくなびいている。その間から見られる太陽の位置から見て、時刻は正午を少し回ったところだろうか。


「あたしは少し街に出てくるけど。お前はどうする?」


 俺の横で退屈そうに腕を組んで風に当たっていたミルが俺に問いかける。

 外の世界はどうなっているのか気になるし、何が起こるか分からない恐怖があるがいつまでもこうしているわけにも行かない。


「着いてくよ。この世界がどんな所か知りたいしな。」


「そうか。じゃああたしの手に掴まれ。」


 少し不思議に思ったが、余計なことをするよりも大人しくしていた方が懸命だろうと思い、差し出された手に右手で応える。


「じゃあ、飛ぶぞ……!」


「──え?」


 瞬く間に浮かんだ体に、体内の臓器が飛びてるのではないかと言うほどの驚きと恐怖が襲った。



 ───────────────────────────





 大きな像がシンボルに相応しい街に、老若男女関係なしに多くの人が賑わいを見せる。

 像は街の中心部、噴水に囲まれた女神像は人気の観光スポットとも言えるのか、カップルがスマートフォンらしき機器を使い写真を撮っている。

 俺の知っているスマートフォンといえば画面タッチで簡単に操作ができ、専用の充電器に繋げれば電池を回復し使うことが出来る……はずなのだが、今俺の目の前で使われているスマートフォンそっくりの機械はどうも仕組みが違うらしい。


 仕組みが違うといっても、この世界に来て間もなく、掟というものを知らない俺には仕組みを理解できるはずもないだろう。

 どう見ても、スマートフォンは浮かんでいる。

 まるで自分の手にセンサーがあるかのように反応しながら動いているのだ。

 ミル曰く、最近発売されたカメラの類の機器らしく、写真を撮ることはできてもスマートフォンのように通話やアプリをすることは出来ないらしい。


「この世界の人間は全員自分の中にある魔力を使うことが出来る。その魔力を簡単に科学エネルギーと融合させて機械を動かすことができるシステム……と言えばいいか?お前達は魔力なしにどうやって生きてきたんだ?」


「そんな事言われてもなぁ。俺の元いた世界はあぁいう機械はボタン1つ押せば簡単に写真が撮れるんだよ。」


 ずいぶんと便利なものがあるのか。

 そう言ってミルは像から離れた方向に歩き出す。

 約十分間程度、ミルの飛行能力──これまた魔力による自己変化と呼ばれるものに連れられ俺はこの街にやってきたのだが、いたって変わりのない街並みに、スーパーやカフェが存在する。

 車や電車などの交通機関の類は全く見受けられないが、そんなに広くもない街なので必要ないからみないだけで、ここに来るまでに空から交通手段と思われる機械は見えたし、それなりに技術は高いものが多いようだ。


 何気なくミルの後に付いて街中を歩き回る。

 なんだかんだで、俺のために街を案内してくれてるんじゃ……と思ったその時だった。


「──止まれ!!!」


 ミルの声に、思わずビクリと体を震わせながらその場に静止する。

 ヒュっと短い音を鳴らし、まさに今俺が踏み出そうとしていた大地に刺さるものがあった。

 銀の刀身を持つ二本の小刀。

 その刃には、強烈な異臭を放つ紫色の液体が流れていた。

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