料理の由来
「ちょっと待て、おんどれ、そんな物騒なもので何しようと思ってんねん!」
「何って、切ろうとしてるんだが……」
包丁を片手にチクワを切ろうとしたら、チクワに待ったを掛けられた。
「待て、待て、おんどれ、そないに簡単に言うが、ちっとは切られる身にもなってみんかい」
「切られる身ねぇ……」
「待て、待て! どうしてそこで切ろうと出来んねん、切られたら痛いんやぞ、めっちゃ痛いんやぞ!」
「いや、そう言われてもなぁ……」
まぁ、包丁でザックリと輪切りにされれば、それは痛いとは思うが、かと言って、この状態のチクワを丸齧りする気にもならない。
「なぁ、思い直せ……お前にもお袋さんが居るだろう……?」
「いや、オカンは七年前に死んだわ……」
「いや、待てって! オカン死んだ言いながら切ろうとすんなや!」
「そうは言うがな、俺かて腹減ってんねん」
「だったら、ほれ……何か他のものを食うたらええがな……」
「俺は、チクワが食いたいねん!」
「いやいやいやいや、こんだけ話したらもう他人って感じせぇへんやろ? な? 情が移ってほら……って、切ろうとすんなや!」
まったく五月蝿いチクワだ、これでは何時になっても食えないではないか。
「なっ……ここは日を改めてだな……」
「あっ、そうか……」
「何や? おんどれ何を思い付きおったんや……あっ、おんどれ、それは……むがぁ……」
チクワにキュウリを詰めるのは、口封じのためらしい……