蛙
短編として掲載したものを再掲載しています。
蛙
また小さなミスで、課長に嫌味を言われた。
別に取引先にまで影響が出た訳でもなし、損害が出た訳でもないのに、ねちねち、ねちねち、しつこいねん。
公園のベンチに腰掛けて、池を眺めていた俺の前に、蛙が一匹すいすいと泳いで来た。
「あ~あ、いっそ俺も蛙になりてぇな……」
俺の呟きが聞こえた訳でもなかろうに、俺の前を横切るように泳いでいた蛙は、ふいに方向を変えると、岸の方へと寄ってきた。
そして、のそのそと岸に上がった蛙が口を開いた。
「蛙になったらええがな、ええぞぉ、蛙は、毎日す~いすいや」
「そんなに簡単に蛙になれるなら、苦労なんかせんわい」
いきなり蛙が喋り出したのに、なぜだか俺は普通に答えていた。
「簡単やがな、この池に、ぽ~んと飛び込んで、神様、蛙にして下さい、って頼めばええだけや」
「ほんまかいな……」
「ほんま、ほんま、マジやで、これ……」
俺は真面目に考え込んでしまった。
毎日あのハゲ課長に嫌味を言われて、あくせく働くくらいなら、いっそ蛙になったろうかと。
「ええぞぉ、蛙、毎日、す~いすいや……あっ」
突然横から飛び出して来たヘビが、ぱくっと蛙を一呑みにした。
「あぁ……やっぱり人間がええな……」
「せやろ……」
ヘビが笑いながら答えた。