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【書籍化】闇ギルドのマスターは今日も微笑む  作者: 溝上 良
第三章 勇者パーティー編
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第四十一話 ララディの油断

 









「さて、お前らはどうするですか?ララと……マスターと戦うですか?」


 ロングマンを殺したララディは、次にその冷酷な目でユウトとマホを見下ろす。

 戦うと答えたら、すぐに殺してしまいそうな殺気を放っていた。


「やるわけないでしょ。ロングマンたちがやったことは絶対に許されることじゃないし、あんたとも戦いたくないわ。殺されるだろうし」


 それに、マスターとも戦いたくないとマホは心の中で付け加えた。

 確かに、共に苦難を乗り越えてきた仲間であるが、オーガを使役するために何の罪もない村人たちを虐殺したことは許容できるはずもなかった。

 彼らの無残な最期に思うところがないわけではないが、彼らのために戦おうとも思えなかった。


「僕は……」


 ユウトは非常に複雑な心境であった。

 彼は、ロングマンやメアリーに裏切られてもなお、彼らのことを憎むことができなかった。


 たとえ、命を狙われても本当に敵とみなすことができなかった。

 それは、彼の美徳である優しさである。


「ユウト。今まであなたの優しいところに救われてきたこともあるわ。だから言わせてもらう。今のあなたは、甘いだけよ」

「マホ……」


 苦しんでいるユウトを見かねて、マホが優しく声をかける。言っていることは辛辣だが。

 もし、ユウトがロングマンたちを殺された怒りでララディとマスターに襲い掛かったらどうなるだろうか。


 勇者パーティーからの死者が一人増えるだけである。

 それに、ユウトがマスターに攻撃しているのを見て、マホは自分がどのような判断を下しているのか想像できなかった。

 それが、怖かった。


「ララディのしたことは酷いけど、剣を向けてきたのはあっちだったわ。このことで、ララディとマスターに怒りを向けるのは筋違いよ」

「……そうだね。うん、分かっているよ」


 マホの言葉に、コクリと頷くユウト。

 本当は、マスターとララディが闇ギルドであるという点で彼らにも落ち度があるのだが、意図的にそれを避けて説明したマホ。

 嘘を言ったわけではない。真実を告げなかっただけである。


「……ちっ!殺せないですか」

「聞こえているわよ、あんた」


 遥か上空から、忌々しそうな舌打ちが届いてくる。

 そもそも、ララディも不機嫌さを隠そうともしていないので、咎める目で見られても嘲笑うだけである。


「さて、そろそろアルラウネバージョンを解除するですか……」


 勇者たちを皆殺しにできないことを悟ったララディは、早くマスターに褒めてもらうために魔族の状態を解除しようとする。

 しかし、それはある者の雄叫びで実行できなくなってしまった。


「ガァァァァァァァァァァァッ!!」

「なっ!?」


 ララディの攻撃によって、腹に棘が刺さって地面に倒れこんでいたオーガの一体が、猛々しい叫び声と共に起き上がったのである。

 その近くにいたマホは、驚愕と共に絶望する。


 周りにあるものを全て破壊対象とする獰猛な魔物、オーガ。

 そんな魔物の近くにぼけーっと突っ立っている自分なんて、真っ先に殺されてしまうだろう。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「……あれ?」


 しかし、そんなマホの予想とは裏腹に、彼女には目も向けずに一直線にララディ向かって走り出す。

 もしかして、ロングマンの命令がまだ残っているのだろうか?


「ふんっ。あそこで魔法使いを殺していたら、吹き飛ばすだけで許してやったですのに……。さっさと、死ね……です」


 もう飽きたと、つまらなさそうに首を横に振るララディ。

 彼女の意思にしたがって、地響きを鳴らしながら大量の巨大な植物が現れる。

 そして、尖った蔓でオーガの身体を狙っていく。


「む……」


 しかし、オーガはそれを全て防いでしまった。

 あるいは華麗に身体をひねらせて避け、あるいは持っているこん棒で蔓を叩き落とす。


 それだけなら、強力な魔物であるオーガなら可能かもしれないが、なんとオーガはララディ目がけて走り出したまま、走りながらそれらすべての攻撃を防いでしまったのだ。

 アルラウネとなっている今の彼女は、人間形態の時よりも強力な植物攻撃を仕掛けている。

 しかし、オーガがそれらを容易く防いでみせたことに、ララディは違和を感じる。


「じゃあ、これでどうですか?」


 蔓の攻撃が効かないというのなら、別の攻撃だ。

 最初のオーガをドロドロに溶かして殺して、凶悪な酸の液体を吐き出す植物。


 蔓でオーガの進む道を誘導して、そこに吐き出させる。

 流石のオーガも避けることができず、それが直撃して今度こそ止まるかと思いきや……。


「はぁっ!?」


 ララディは目を見開く。

 何とオーガは酸の液体を避けられないと悟ると、腕を前に出して受け止めたのだ。


 こん棒の持っていない腕を犠牲にして、なおもララディに迫っていく。

 これには、流石のララディも驚愕の声を上げる。


 ユウトたちにとっては脅威であるオーガだが、彼女にとってはそこらの雑魚と何ら変わりないはずの魔物。

 それが、最初の一撃で殺すつもりであったのにそれを避け、さらに第二撃も避けてしまったのだ。


「ちょっ……!?マズイです……っ!!」


 ララディは冷や汗を頬に垂らす。

 もし、『救世の軍勢(イェルクチラ)』の面々と戦うときのように最初から全力状態だったら、この異常事態にも簡単に対処できただろう。

 しかし、相手がオーガでしかも手負いということもあり、簡単に言えば舐め腐っていたララディはこの緊急事態に手を回すことができなかった。


「ララはどうでもいいですけど、マスターは……っ!!」


 赤い皮膚を怒りと興奮でさらに真っ赤にして襲い掛かってくるオーガを見ても、ララディの心配は自分の身ではなくマスターのことだった。

 前線に出ずっぱりの自分と違い、マスターは長い間ギルドに引きこもっていた。


 いくら昔はバリバリしていたといっても、今では自分の方が丈夫で強いだろう。

 そう思っていたララディは、マスターがオーガの攻撃をくらうとどうなるかわからないと危惧していた。


「あっ、マスター……っ!」


 マホの目には、巨大な花びらに身体を飲み込まれたマスターの姿が映った。

 それは、ララディが召喚した植物であり、そこに入ってしまえばたとえ『救世の軍勢(イェルクチラ)』の面々でも簡単には破ることのできないほど、超強力な防御を誇るものであった。


 もともと、マスターを拉致監禁して二人きりの退廃的な生活を送る予定だった植物の縮小版である。

 本来のものはもっと大きく、そして強固なのだが、この短時間では小さなものしか用意できなかった。


「(これでマスターは大丈夫です。あとは……)」


 オーガを殺すだけだ。

 ララディはもうかなり接近しているオーガを睨みつけて、そう考える。


 いくつかの巨大な植物を召喚し、蔓がオーガを襲う。

 だが、これだけならまた躱されるか潰されるかして致命的なダメージを与えるにはいかないだろう。

 だから、一つ特別な植物を召喚した。


「お前に出すには不相応なほど希少な植物ですよ。たっぷり、味わうがいいです」


 ニヤリと笑うララディ。

 彼女が召喚したとっておきの植物は、花弁から猛毒の霧を吐き出す死の植物である。


 その毒性は凄まじく、霧を体内に入れてしまったら最後、内臓を尽く破壊して内部から死に至らしめる恐ろしいものである。

 自分の命よりも大切なマスターは絶対に安全といえる植物の中に閉まったし、アルラウネであるララディにその毒は効かない。


 マホやユウトがこの場にいるが、まあ仕方ない。死んでもらうとしよう。

 そう考えて勝利を確信したララディであったが……。


「はぁぁっ!?」


 オーガの目がギラリと光った。

 次々に襲い掛かってくる植物には目もくれず、一目散に毒花目がけて走り出したのである。

 それを食い止めようと蔓がオーガに襲い掛かるが、多少の傷など顧みず、ただ毒花に向かって走り続けた。


「ガァァァァァァァァァァッ!!」


 そして、ついには毒霧を吐き出す寸前の植物の前にたどり着き、こん棒で以て叩き潰してしまった。

 こうして、ララディは最後の攻撃チャンスを潰されてしまったのであった。


「お、おかしいです!お、オーガがこんなに強いはずが……っ!!」


 無防備となってしまった自身に襲い掛かるオーガを見ながら、切羽詰った声を出すララディ。

 いくら油断していたとはいえ、オーガ程度の魔物ならそれでも十分であるはずである。


 実際、油断しまくっていたとはいえ、このオーガ以外の四体のオーガをすでに始末しているのだから。

 もし、ララディが慢心を一切せずに、全力でことに臨んでいたらこんな戦いにはならなかっただろう。


 この特異と言ってもいいオーガでも、おそらく一分すら持つまい。

 だが、現実は違っていた。


「はっ……!ま、まさか……っ!!」


 思い当たる節のあったララディは、カッと目を見開く。

 慌てて魔力探知を全力で行うと、隠蔽されているがゆえに少ししか感じられないが、よく知る魔力を感じ取れた。


「あ、あ、あ……!!」


 ララディの額にはピキピキと青筋が生まれ、小さな体躯からは怒気と共に緑色の瘴気が溢れ出す。


「あのぉっ!クソ女ですかぁっ!!」


 ガアッと怒りを露わにするララディ。

 辺りに潜んでいた魔物や動物たちは、アルラウネのあまりにも強大な怒りに、背を向けて一目散に逃げ出した。


 オーガは逃げないでいたが、ビクッと身体をすくませて怯んでいた。

 それは、決定的な隙だったのだが、今のララディはオーガなど目に入っていなかった。

 興奮のあまり、どす黒さが混じった緑色の瘴気を放ちながら、クリクリとした大きな目をさらに広げる。


「あの赤髪モジャモジャ乳牛女ぁっ!!ララと出会ってやけに大人しいと思っていたら、まさかこんなところでララを殺しに来るとはなぁっ!!そりゃあ、マスターに対して一向に攻撃を仕掛けないですよっ!!」

「ひ、ひっ……!な、なに?なんなのよ……?」


 自身の乗る植物を派手に暴れさせて、何かを納得した様子を見せるララディ。

 近くにいるマホやユウトを一切顧みず、むちゃくちゃに暴れる彼女に恐怖の目を向けるマホ。


 しかし、それでもララディは彼らを見ることはない。

 マスターが絶対に安全な今、彼女が気にするべき人間など存在しないのである。

 それに……。


「ちっくしょう……っ!!」


 ララディは自身の真下を見る。

 そこには、獰猛な笑みを浮かべる、満身創痍のオーガがいた。

 ニヤリと笑みを浮かべた魔物は、ようやく獲物が手の届くところに到達して嬉しそうだ。


「ゴァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 そして、雄叫びと共にこん棒をララディの乗る植物の茎に叩き付けたのであった。





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